一九八四年 昭和五九年三月発行
一九八三年 昭和五八年度 第八回会報より  玉野叔弘

土佐錦魚審査思考 二

審査の目
 審査はまず総体的に見て、その魚の持っている雰囲気、言い換えると、その魚の持ち味を掴むことから始まります。その上に会報の役魚短評に出てくる抽象的な言葉が続きます。まず、奇麗であるか、可愛いか、均衡、品、力、極まり、健康、若さ、素直、貫禄等々でてきますが、らしさ、味、品や可愛いとかの雰囲気的なことと、極まりや均衡的なことがまず重要視され、それに見合う各部の良さへと進みます。会報末尾の土佐錦魚参考に大まかに分類されていますが、ここでは主要な二点、顔と尾から進めて行きます。
 金魚作りで最も難しい部位が顔です。飼育にあたってよく一日も手を抜けないと言いますが、一時も目を離せず、ちょっとの失敗も取り返しのつかないところが顔です。口先は品を現す代表で、細く作り且つ保つことは、名人の域に相当します。

1 目先ある魚は鼻筋が通り、
2 目幅が適度であれば口からの線は素直に伸びて、上品さを浮かべます。
3 目幅が広過ぎたり、
4 狭過ぎれば不自然であり病的に貧弱にも感じられます。
5 目が出ていたりもすれば著しく美観を損ねます。
目先

 続いて目の後ろから鰓にかけては、
6 自然な線が求められ、
7 わずかに鰓が痩けても気にかかります。
8 まして鰓が反り返っていては著しく損ないます。
目の後ろから鰓にかけて

 おでこの線(口先から背鰭の付け根まで)は
9  背に掛けて直線か、
10 わずかに凸面の弧を描くことが良く、
11 背始めが盛り上がることは、品を落としてしまいます。
おでこの線

12 少しの鼻瘤や、瘤・尾筒・腹
13 肉瘤も好ましくなく、魚の一生につきまとう厄介なものですが、少なくとも当歳では目につかぬよう努力を求められます。
 体で真っ先に見る骨格は、直接目に触れないためなおざりにされがちですが、魚を見る根本として鋭く見極めて下さい。
 上見から、背骨の太さ、伸び、詰まり、及び曲りを、
14 横から見ては、口先から目を通り側線を結ぶ水平線を基本として、
15 尾筒(腰)の伸び、
16 尾筒(腰)の詰り、
 そして、腰折れの深さ、付きを、さらに背形、腹形と進みます。
17 肋骨(腹)の張り具合は、肥り過ぎてもバランスを欠き、鰓より痩せていては土佐錦らしさを損なってしまいます。

 つぎに背肉の量は、こけら(鱗)の肌合い(大小、並び、きめ細かさ)、色艶は、尾筒の太さ、平筒か丸筒か。
 この当たりからもう一つの要点、付きへと繋がって行きます。
“尾付” 別の表現で、筒の決まり、金座の決まり、親骨の決まりを大きく含んだ“極め”と言っても良いでしょう。魚の中心に位置し“要”となります。骨格を土台にして魚の総てに影響を与え、バランスを支配しています。
 しばらくは魚の横見を思い浮かべて下さい。

 腰折れの深さ、付きの高さは、
18 水平が基準、
19 水平より深めであればすこぶる安定します。
20 浅めであれば逆立ちの原因にもなり、不安定となります。
 腰、金座、尾芯の付きの角度は、
21 やはり、水平が基準になります。
22 僅かに上がり気味は先行きから良しとしています。
23 上向きすぎれば尾立ちになり、
24 下向きならばお下がりになり、安定は良いものの力は失われて行きます。
腰折れの深さ・付きの高さ

 横見からの親骨は、
25 水平線の接点から始まり、尾先が少し下がった位置を基準にしています。横見からの親骨
26 下がり過ぎを深前、
  水平を浅前ぎみ、
27 水平より上がっているものを浅前と呼んでいます。

 一方、上見からは、骨格が太く、尾に振られずに尾を従わす体は見事なもので、その尾筒がそのままの勢いで金座まで降りていれば、理想と言えましょう。筒を受け継いであまりある大きな金座は、尾全体を束ね把握するように君臨し、一番外側の鱗まで光り輝くことが望まれます。
 金座が弱すぎれば尾は山なりに下がり、強すぎれば尾立ち、抄い、浅前、挙げ前、逆し向き(逆立ち)等の原因になります。

 上見からの親骨は、
28 静止状態にて渡りの中心線前後に納まり、付け根から前方に三分の一程が迫り出し、残り尾先へ三分の二程は後に抑えます。尾先が中心線から前方に出てしまうことは、主に後退時で許容されています。親骨の抑えは、反転のみを前方に大きく発達させる必須条件となっています。
 左右の尾付けが
29 前後、または上下に違っていれば、文字通り違いと表現し、前後上下の違いが共に作用していればねじれとなります。ねじれの元凶がどこにあるかが問題で、骨格に起因していれば種親にも向かないことになります。
 尾に関しては、しわ、たるみが悩みの種ですが、飼育によって現れにくくすることも可能ですが、多くの場合遺伝子によって現れ、やはり種魚が問題とされます。
上見からの親骨・尾幅・尾形 30 朝顔、唐傘(尾筋先端から次の先端までのくびれ)は花の如く、大きくくびれている程華やかなものです。
31 尾幅、
32 尾形については成熟した親魚を見本にする上で、若親、二歳、当歳を見て行きますが、当歳では目立ちやすい尾幅の広い魚のみに注目せず、お幅は狭くとも尾に厚みを持ち、尾筋が濃く、尾芯が太く、長さも十分にある魚は大器晩成型。その上に小さくとも朝顔の片鱗を見せていれば、華麗に変身してくれます。尾幅が大きくて上記の条件を満足している魚は、勿論大歓迎です。
 尾の前の反転は、良く抑えられた親骨から伸びやかに広がり、
33 後との繋がりに余裕を見せる魚を標準とします。
34 余裕なく繋がり、くびれのように見えせる型も別の型として同等としています。量感と余裕において損をしますが、華やかさは増します。
35 一文字(親骨から直接反転が始まっている前の型。注意することは親骨の型で袋の型ではなく、また袋を含めた前の型を言う)は昔の型と言っても過言でない程に、最近は良魚を見かけなくなりましたが、袋の語源となる本来は素晴らしい反りで、ベタ反りでなく袋が目元まで口元までに達する要素を持っています。
36 折り舞い(尾の一段(一筋)あるいは二段(二筋)が親骨に付随して親骨を補強している反転。
 補強されている折り舞いと補強無しに親骨から直接始まっている一文字と比較すると、直接からは親骨の強い抑えをより必要とするため、素質と飼育に一層の難しさが加わります。袋は舞うが如くに、福与かに、渡りの長さに比例して華やかさが増して行きます。渡りのある魚は、金魚の見せ場を一層備えていることになります。
 いつも動かしている胸びれは泳ぎの主役となって、およそ泳ぎに不向きな尾を牽引する運命なので、大きくシッカリしていることが望まれます。胸びれの大きさは尾の大きさと比例して、胸びれが大きければ普通の大きさの尾であっても、やがては大きな尾になることが予想されます。胸びれの曲りやちょっとした奇形は、その程度と魚全体の良さによって、加味されることになりましょう。
 今度はスカートの中を見て下さい。魚を裏返して舵鰭を見ます。船の舵と同じことで、曲がっていたり、違っていれば魚の泳ぎにも癖が生じてきます。
 審査では、魚の泳ぎの癖を見ても、直接舵鰭の癖を問題にすることは、舵鰭一枚か二枚かの問題と同じで、最終的なことでしかありません。が、遺伝子的には大きな意味を持ち、種魚選びには留意するところです。
 スカートの中のもう一つ、裏の金座(裏金座)も直接問題にされませんが、尾の張りを予測する上で必要に応じて確認することも良いでしょう。その他にも、上見からでは疑問に思えたことを、裏から確かめることが出来ます。背骨の曲り、腹の張り具合、片腹、親骨の張りや違い、反転の大きさや違い、後の違い等一目瞭然です。上見で見極めることは、審査として観るうえの妙味でもあるのですが、確かな判定と予測を必要とした場合、魚の秘められた裏側も多いに利用して下さい。
 要は“要”の付きと背骨がガッチリしていれば、魚全体が安定し、体も尾も細部に渡って、その本領を発揮することが出来ます。
 繰り返すようですが、付きも顔も、大きく血統が関わってきますので、飼い方で百%作ることは出来ません。また、血統がいくら良くても、飼育を抜きにして百%作ることも出来ません。種魚を選ぶ時には、例え部分的でも要点に、閃きを感じて選ぶことが肝要です。
 “熟達した審査員は、素質の型をその魚から見とり、血統を推測することができる”ようになります。
 審査は良所を探すことから始めて下さい。裏腹の欠点はしばしば利点を隠すことがありますが、欠点と利点を旨く切り離し、まず利点を見て下さい。魚を観ると言う行為の中で最も繊細で神経を働かすところ、それが利点を見ると言う行為なのです。また、金魚を愛し、観賞する上での一つの礼儀ではないでしょうか。
 反面欠点は見よう探そうと思わなくても、直ぐに目につくものです。土佐錦が誕生してこのかた、欠点の無い魚はいない、と言えましょう。その内で優れた利点を持つ魚が銘魚と言われてきました。そして、その欠点は、「なければ」と言われながらも無視に等しく、皆はその魚に目を細め目を見張ってきたのです。
 審査での欠点とは、
“審査”の判定に値しない欠点を基本的に除き、一般的に「なければ」で済まされるものをいい、利点の少ない場合のみ、欠点が強調されてもやむを得ない。
 おのずと利点の審査を基本として、同等の良さを持つ魚の間で初めて欠点を取り上げることになる。
 文章にすると煩雑極まりない感が在りますが、
“あなたは、貴方自身の感性によって、瞬時に見極めることができるのです。”

次号へつづく

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