二〇〇八年 平成二十年三月発行
 二〇〇七年 平成十九年度 第32回会報
  及び 志す人のブログより       玉野叔弘

温度管理

 あちこちで親魚が落ちているような噂を聞くに当たって、役に立てばと思いから急遽触れることに致しました。
(今、ゆっくり書いている時間がないので、先日ある人に出したものを差し当たって応用しています。)

 もう十年ぐらい前になるようですが、
ひょんなことからヒントを得て、温度管理を対策としてコツコツ積み重ねてきました。今ではいろいろの手法に辿り着いて、その中でも簡単で効果のある対処方法を用いることが多くなっています。
 なかなか産卵しない時や産卵後にも有効ですから、是非試してください。
 実行している当方の会員は、産卵して困るぐらいの人もいます。

 我が池では産卵要員の鉢に200ワットヒーターを入れ、
魚が食後落ち着いてから30℃以上に上げて、15時頃にヒーターを切り、自然に下げています。
 ウイルス対策と産卵対策を兼ねていますので、一番簡単で効果のある方法です。
 産後にも効果があります。

 30℃以上に何日か上げっぱなしにすると、ウイルス治療になることは本に書いてありましたから、ご承知と思われます。その記事を読み、コツコツやって来たことに確信を持てましたので、皆さんへお伝えすることもできると思われます。
 ウイルスはいくら治療しても、魚の調子が崩れればまた直ぐ再発しますので、治療したからと安心できません。

特に産卵期が問題になる訳です。

 雌は卵を産む機会を一度止められてしまうと、その年は二度と産まなくなることがありますので、ウイルスが働く前に押さえておくことが寛容になります。
 治療を一度したならウイルスは納まっているので、その後のウイルスが働き出さないように抑える効果になっています。
 治療と違い抑えて健康効果を求めているので、産卵には朝18℃程から20℃近辺に下がっていることが必要となります。自然と同じように最高水温が出る辺りでヒーターを切り朝には下がっているようにします。
 あまり続けると慣れもありますので、たまには16℃程に下がっても良い刺激になります。水温が高いと蓋ができないので、冷えた日には16℃程に下がっても心配いりません。
 また今日みたいに強い雨降りに蓋をしていて、ヒーターを入れられない時や、また冷えた日はヒーターを入れていても、30℃以上に上がらない時がありますが、かえって毎日高温になるより良い結果になり、それもマンネリ対策のようなものとなりますので、心配いりません。
 こんなことで、親が死ぬことなしに二番も三番も産んでくれます。
 その間に成長もして、昔と変わらない感じです。

 万能ではありませんが、簡単で餌も与えられ、色艶良く健康を保ち、形崩れせず、副作用のない大変便利な方法です。
 大切な土佐錦を守るため、飼い主の気落ちを無くすために今からでも遅くありません。是非試して下さい。
 何か詳しく質問等ありましたら、お答えさせて頂きます。

 夏になると元気でいる。
 例年冬籠りは楽なはずなのに、意外に落とす人がいる。
 春先に不調を訴える人が多くなってきた。
 産卵が順調に行かない魚が頻繁にでてきた。
 産卵期、産卵後に落とし易い。
 乗り越えると夏には元気でいる。
 これは温度が関係している。

 しかし、好調な夏以外は危険が潜んでいる。
このようなことは、今までにない関連だった。

 常時32℃では発病しないことを、ひょんなことから知りました。
それは私が温度管理を始める切っ掛けとなったことです。
 養殖業者の方が、常に32℃で飼っているとを言っていました。
おやっと思い、興味を向けて聞いていると、続く業者の方への質問で、養殖ですから大きくするためですかと尋ねているのを耳にして、ますます興味津々、すると病気にならないからだとの答え、これだな、と感じるものがありました。
 その時に見た変形した魚は温度のせいと言ってはいないけど、温度に伴う薬の副作用でないかと、感じられました。

 得体の知れない新しい菌は、おそらく輸入されたものだとは思っていましたが、薬や塩が利かない、夏以外は冬でもかかる、死ぬし、産卵を阻害して、産卵期が一番の危機になる厄介なものだから、魚のためにも飼い主のためにも何とかしなくてはならない。そんな気持ちに駆られていました。
 ウイルスとは知りませんでしたが、助かっって弱った魚が他の病気に感染しないように、また病後の回復が早くなるようにと、既にリフィッシュとエルバージュを元にして、他数種を混合した薬も既に開発していました。
 その薬と共に温度をかけたら効果が上がるのではないだろうか。
 30℃以上は副作用が起こり易くなる範囲なので、その辺も見極めなくては。
 治療には30℃へ、できたら33℃までと長い間言ってきました。
 同時に薬を入れると効果はかなりになりましたが、やはり30℃以上は副作用がポチポチ出て顔や背が曲がったりしました。
 感染していると思われる当歳を30℃で飼い続けたところ、元気そのものでしたが、ある時ヒーターの不具合で温度が下がると、じきに発病してしまいました。

30℃では抑えるだけかもしれない。
でも抑える効果があることはハッキリ感じられる。
33℃で一週間程飼ったことがある。
魚の調子はすこぶる良くて餌を欲しがって仕方がない程。
調子にのって与えた訳ではないし、多く与えた訳でもない。
肥るよりも痩せ気味、顔がでかめになり、品が無くなり、バランスが崩れてみっともない体と顔になってしまった。
餌の量が足りなかったのかもしれない。
温度が高いので消耗が激しく、かえって痩せたと考えられる。
肥らすまで餌を与えたらどうなったろう。
おそらく土佐錦の飼い方でなく、肥っても顔は崩れたと推測する。
そこまで温度でやってみた魚のその後は、再発の頻度はかなり少なくなったものの、やはり再発を免れることはなかった。

 この間出た本で、非常に参考になる記事を見ました。
 ウイルス感染の治療は、数日30℃以上にするように書いてあったと記憶しています(まことに申し訳ないことに定かでありません)。
 それは土佐錦以外の魚での実験でしたが、基本的には共通するので、その辺を土佐錦に限定して触れてみることにします。
 温度をかけることに気が付いたのはもう一昔前ですが、試してみた経験からすると、

30℃を境に回復基調に傾き、
32℃で効き目が判り、
33℃で魚が安定して、
34℃で見違えるようになる。
30℃に上がるまでに魚が保ってくれるかが、問題とされていました。
 温度上昇の仕方が問題で最初は手を焼きました。
その内に掴めてきて、大まかには20℃を境とした低温範囲と高温範囲とがあり、
  産卵期は高温範囲にあたり、
  冬籠り前は低温範囲に入っています。
  産卵期直前及び産卵期初期は、低温範囲からの移行期となります。

 冬籠り前と冬籠り中、冬籠り明けの低温期と、微妙な産卵期前の時期に発症すると、低温期のために温度上昇が困難になってしまいます。
 最高水温が20℃を下回る頃に、最低水温は10℃前後になることがままあります。
 その頃の魚は、低温へより対応するために体内スイッチを低温範囲用へ切り替えます。
 低温へ適応するようになると、急な高温へは適応できなくなります。
 高温域の時には、試しに23℃から突然30℃へ魚を移しても、なんとか凌いでいます。
 低温域の時に例えば、最低水温10℃前後に慣れて、最高水温18℃の低温域にいる魚を、急に同じ温度差7℃の25℃へ突然入れると、異変が起こります。
 秋の長雨時期ならまだ春より暖かく、天候不順で体調を崩しても温度をかけ易いのですが、何もしないで冬籠り前に入り、魚の動きや抵抗力がが悪くなってからは、温度上昇には気を使うことになります。
 また最悪の事態としては、発症してから温度を掛けようとすると、ウイルスが治まってくる30℃以上の恩恵を受けることなく、ウイルスの好む30℃前で魚は死に至ることが、ほとんどと言う状態になります。
 また、低温域から高温域へ、高温域から低温域への移行時にも、発症してから行おうとすれば魚が若い程、また低温期である程困難が増します。
困難というよりも生存が危うくなります。

 発症したことを気が付かない場合は、成魚の場合が多いのですが、不思議なように死んでしまったり、やたらと死んだり、餌を食べると痩せたり、具合が悪くなったり、成長が思わしくなかったり、産卵がおかしくなったり等します。
 発症前の魚が一見異常を見せていない時に予防措置として行うと、問題が起こらないで済み、魚は昔のように生き生きとして来ます。
 冬籠り前は案外体調不良になり易く、曇りが付いたりしますが、極端にひどくなることが少ないせいか、意外と放置しておくことが多いようです。
 昔なら「春になって暖かくなれば取れてしまうさ」こんな気軽さでも滞りなく春を迎えることができた頃もありました。
 もちろん曇りは体調に陰りがさした証拠、品評会へは曇りなく出すのが当たり前。他の出陳魚に迷惑にならないとも限りません。でも、東京では曇りのない魚などほとんど見られない環境です。
 そんな頃から冬籠りまでは、より神経を使うようです。
 籠り中に不慮にあったり、籠り明けに見舞われたり、調子が出なかったりするのは、秋の扱いに問題を抱えたまま冬籠りに入ったことが、原因の主となっています。
これを予防するのが冬籠り以前の処置となります。

「産卵用意は秋から始まる」
 以前から良く言っている言葉です。
 金魚は産卵期が春と秋の二回あると聞いたことがあります。
「熱帯魚じゃあるまいし」
そんな思いを即座に抱きました。
 経験はありませんが、秋に産んだ土佐錦がいたとも聞いています。
 大昔はそうだったかも知れないので、そんな性質が残っているとしても不思議ではありません。
 なるほど! 翌年に産卵する卵の元を秋には抱いている。
そんな印象を魚から受けます。
 抱いた卵の元は、子孫の繁栄に不向きな冬へ近づいているため、抑制されるようになった。
 そして、子孫繁栄に向いている翌春に成熟を迎える。
 温帯の四季を環境とした金魚は、次第にそのようになったと思われます。
 温度を30℃以上へ上げることが速やかにできない低温期に発症させてしまうと、ほぼ望みは無くなると言っても良いぐらい、そんな印象ですから、秋には低温期になる直前に温度を掛ける。
 ウイルスが住んでいる魚への養生として、心掛けの一つです。
 現在は土佐錦全部が侵されていると見た方が無難です。
ということが常識的措置と言えるようになって来ています。

「うちの魚はそんな変なことになっていない」

 そう思っている人へ。落とし穴的に壮年魚は、一見なんともなく見える事があります。
 感染しから発症一度目は一番症状がひどく、発症の度、次第に症状は軽くなっていきます。
 発症初めてはまた若い時が多く、抵抗力、体力が壮年魚より劣り、甚大な被害を受けることがあります。
 それがよい環境や幸運が重なって、感染発症の経過を気がつかず、ただの病気程度が治ったなんて勘違いがままあります。
 そうして来た魚も命からがら助かった魚も、壮年になれば抵抗力や体力が増し、発症しづらくなり、発症しても軽くなり、たとえ発症していても一見なにげなく、発症していると気が付かない時もあるくらいです。
 それは、食欲があり、元気に見え、少し曇りが付いているぐらいで外観には異常なく感じられるからです。
 それでも体内では、虎視眈々とウイルスが魚の弱りを狙っています。
 肌艶が、少し餌の食いが、太りがどことなく、成長が遅いのでは…、そんな気がしたら、もう警戒範囲です。特に若い魚は。
 高齢魚ではウイルスの働きが鈍くなっても、魚自体の代謝が弱るために、昨日までは元気にしていたのに、不思議と思える程今日突然・・・なんてことがあります。
 何ともないように見える高齢魚も一緒に処置をすると、一層元気を増してくれます。
 共に泳いでいる魚の一尾が調子を落としたら、その鉢全部を一緒に処置することが望まれます。
 弱い魚は崩しても、魚の個体差で他は元気なことがあります。
同じ環境ですから崩す要素を受けていることは一緒なので、同じ措置を施すことが無難になります。

 ウイルスは何かあるごとに働き始めます。
 誰も失敗をしていなくても、天気が悪くても、水が思わしくない時も見逃しません。
 すかさず機能低下を招いていたことに、ほととんどの人は気が付いていません。
 気が付くまでに現れた症状の一つが、産卵期では産卵異常になります。

 どうして産まないんだろう。ポロポロ出すけどおかしい。
ですがこの症状でさえ、ほとんどの人はウイルスが関与していると、気付いてはいません。
 そして、処置をした人も、餌のせいか、水のせいか、元気の無い魚が元か、等々。
 水換えしたり、餌を控えたり、気になる魚を隔離したり、薬を入れる処置で良いのかと半信半疑の勘違い。
 それでは少しウイルスの動きを留めたか、合併症を抑えただけなのに。
 産後一日の油断が貴重な親を失うことに繋がってしまう。特に雌は危うい。
 でも、気付いていないと他の理由はいっくらでもついてくるし、つけられる。
 その証拠は、産んだその日に温度を掛けるとそれだけで、明くる日には昨日産んだ娘なのかと忘れるくらいになるからだ。
  元気が証拠。
  しなかったら、落ちる魚がいるから証拠。
 今年は5尾それで落としてしまった。
 親全体の3%程度だが、産後の不養生。
 承知でしているので、とても罪の意識を感じている。
 しかも内二尾は良魚だった。

 ウイルスと書いていますが、金魚ヘルペスウイルスです。以前、鯉ヘルペスが話題になりましたが、金魚へはうつらないそうです。
 以前、ペットショップで鯉の隣に居た金魚が、同じような症状になったのを見たことがあります。
 専門家が見れば金魚は金魚で体調を崩したので、持っていた金魚ヘルペスが働いたと立証するものかも知れません。
 人間のヘルペスウイルスでは初感染のとき子供でひどく、大人になるほど軽くなり、よく口の周りにヘルペスとして水ぶくれが出ますが、出た時はもう終息期のようです。
 目的を果たしたウイルスは、体内のリンパ節や神経節に潜伏している状態と聞いています。
 そこへは抗生物質も効かないので根絶することができずにいると、人間の体力が弱まれば、またゾロ出てきて働き始めます。人間では体力があるためそうそうちょくちょく出て来ることはありませんが、土佐錦魚では、そうそうちょくちょく出て来ます。
 そして、土佐錦魚でも同じように働くと見ても、間違いではないようです。
 そのウイルスが唯一働きを潜める時期、

それが真夏です。

ここに温度による鍵が示されていました。
 養殖業者がくれたヒントは治療的なものと発症抑制ですが、結局は完治せず、温度を下げる時は出荷時なので、発症も何も関係なくなってしまいます。
 それまで、常に抑えた状態を維持している訳です。
 ある意味予防的でもありますが、まさか土佐錦をそのように飼育する訳にも行かず、実用的でも自然的でもありません。
 夏がくれたのは自然的でありながら予防的ヒントでした。
 発症すれば自然的では間に合わないので治療的をすればいい。
 それはそれで成魚ほど助かる可能性がありますが、本来は具合を悪くしてからではもう遅いのです。
  具合の悪くなる前の、なり始め、
  具合が悪くなりそうな感じ、
  予感的に悪くなる前、
  なりそうな時期、
  決まってなる時期には、
予防的処置でも自然的な予防措置を適用できます。
 具合が悪くなった時には待った無しで、いつでも治療開始。
 低温期でも経過処置をとれるぐらい早期なら、中温期を経過させれば30℃以上まで何とか持って行くことができます。
 ところが中温期経過でもたもたしてちょっと遅れると、そこまで行き着かずにあえなく…、なんてことも。
 中期に起こったなら、用心しながら30℃以上へ。  高温期なら速やかに30℃以上へ。
 そして、症状の重さによって、調子が出る温度まで上げて続けます。
例えば、速やかに
  30℃一日目、
  32℃二日目、
  34℃三日目、
  32℃四日目、
  30℃五日目、
  常温 六日目。
 これでも数日30℃以上になったことになります。
軽度なら、速やかに
  30℃一日目、
  33℃二日目、
  30℃三日目、
  常温 四日目。
魚の状態や目的によって色々のパターンが活用できます。

治療処置時、特に予防時の要注意。
 元気が出てくると餌を盛んに欲しがります。
 早期なら30℃以上一日目でそうなることがあります。
 調子が出れば30℃以上ですから、とても餌を求めます。
 あまり激しく欲しがるので、つい与えたくなる。
 健康的には案外与えられて大丈夫ですが、土佐錦の形崩れを懸念するなら与えないようにして下さい。
 何回試してもいいことはありませんでした。
ここにも飼い主の、土佐錦を育てる方向性がハッキリと出てきます。

 予防的なら夏の日常のように、高温期なら自然的速やかに行えます。自然的ですから餌を与えることができます。
但し高温にするため過度に欲しがりますので、いつもより少なめにして下さい。
 昼間30℃以上へ。夜は常温へ。日常、自然のように夜はヒーターを切って下げます。
(最高水温の30℃以上とは高くて34℃までを言います。
 33℃で十分効き目がありますが、魚が絶えられて且つウイルスをもっとやっつけようと思う時には、冒険的に危険を承知で一か八か35℃でもできる時があります。)
 予防的では限度33℃止まりです。
31℃、32℃で効果を十分得られます。
効き目を強くしたいと思えば30℃以上を昼、夜、昼と続けたりできますが、産卵期では鮒尾率へ影響が出たりしますので、時期を選びます。

 自然的にしながらやはり効果を求めるには、夏の日常再現を三日も続けるようです。これも産卵期には要注意。
 夏の日常再現を自然的に隔日ですれば、鮒尾率への影響は少なくて済みます。
(ここでの夏の日常再現とは最高水温を指し、最低水温は高温期の自然温を用います)

 秋の養生としては、大会前なら最低水温がかなり下がっても、最高水温20℃以上になることがまだまだありますので、その日とその明くる日が昇温好機となります。
東京では曇りが付く気候が常識的なので、必須的になります。
せっかく低温に慣れようとしている時です。
無闇に続けたりせず一日で済ませて、またの好機に期待しましょう。もともとそんなに調子が悪かった訳ではないので、曇りが総てとれないまでも元気は増すはずです。

 でも、やはり曇りを取りたいと思えば、薬を併用するか、温度掛けを頻繁にするか、続けるようです。

 十一月も深まると冬籠りに近づきます。
やっと最高水温20℃になるかでしょう、その日を好機にしますが、普段からたまに昇温していると、案外できるものです。但し、31℃前後で十分です。

ここで念を押しておきますが、昼間だけです。 夜はかなり冷えるはずだけど?
30℃から10℃まで?
上が15℃なら下はすぐ下がりますが、30℃あるとゆっくり下がるものです。
また、下がってくれないと、低温気であることを忘れてしまうことになり、困ります。

 低温期ですから20℃まで下がった辺りで、普通は蓋の保温をして、より緩やかに運びます。
冬籠り直前になって、温度をかけておいた方が良いと感じた時には、低温期なので経過措置が必要になります。
発症している訳ではないので、焦らないでまず一日目は最高水温20℃まで、二日目は25℃まで、三日目で30℃までと言うように徐々に無理をしないようにします。もっと日にちを掛けても良いでしょう。
最低水温はヒーターを切った自然保温に任せます。
(ここでの自然保温とは容器及び蓋等による上下からの保温を言います)

 冬ごもり明けで多少の曇りが付いている時は、多少の環境悪化、また、単に低温のために新陳代謝が抑えられてついていることが多く、どちらも少しはやむを得ないところがあります。

 許容範囲であることを願うばかりですが、籠り前にシッカリ養生している場合はわりと、按ずるより産むが易しで、暖まる程に取れて行くことが多く見られます。

 籠り明けから進むと直ぐに産卵準備期間に入ります。
温度変化が安定しないところで、魚の体調がシッカリ整わないうちに、餌も水換えも行われ、ウイルスが働いてしまう条件を招き易くなります。

 影響は重ければ発症へ、軽くても産卵へ響きます。
原因の主なものには、温度変化に対応した餌の与え方の失敗。
また、性急な水の管理があります。
この餌と水の管理双方を同時に緩和してくれるのが、同じ温度管理でも別な分野になる、産卵への温度管理となります。

 これを上手く行うと、ウイルス対策の温度管理と重なるため、ウイルスの働く隙間を少なくでき、且つ産卵への歩みを順調に進ませることができます。

 ここでは範囲を広げ過ぎないよう水対策は別の機会として、産卵への温度管理のみに触れて行きます。

 当会では簡単に、
[水替えして餌を与えだしたら、その時点の最低水温より下げないように]と言っています。

 春が進み餌を与えても良い条件ができたら、水替えと同時進行して行きます。

 三寒四温に合わせるよう徐々に最低水温も上がって行くことになります。

 三月末の種親会のとき、すでに雌の腹が大分できているので何となく危うさを感じて、一言付け加えた時がありました。
「18℃以下に下げないで下さい。17℃以下には絶対下げないように」
と告げましたが、誰一人聞く耳を持たなかったようです。

 そのとき会場から我池へ戻って来た雌が、四月初めに産んでいました。でも、雌魚を持ち帰った会員宅ではどこも産まずに、中には一ヶ月も遅れたとか。

 それまで温度管理をして、順調で渡せるようにと苦労した身としては、淋しさを噛み締めるだけでした。

 個体差があるので、絶対的に18℃以下で産まなくなるということではありませんが、18℃が安全範囲で、17℃で不安定になり、16℃で危険性が増します。

 逆に20℃からそれ以上では促進となりますが、早急なことは控えるために、安全最低範囲18℃を伝えています。

 不思議な温度20℃。
これはある法則の基点にもなっています。
どうしてそうなっているかの解明は、今の科学でも出来ていないので、無闇に混同することは出来ませんが、20℃が魚の基点になっていることは感覚的にも感じられます。

 安全最低範囲18℃は、産卵のみのことを言っていますが、17℃以下になると新陳代謝が衰えをみせるので魚の負担が増し、調子を崩さないとも限りません。
もし崩そうものならウイルスが動き出してしまいます。
崩さなくても新陳代謝が衰えをみせただけでも動き出しかねません。

 環境次第ですが、用心に用心を重ねるに越したことはありません。産卵間近その年の初産の時には、15℃で危険範囲に入ったと警戒します。と、同時に遅れを覚悟します。

 どのくらい遅れるかは、その後の養生次第です。それをどのくらい意識するかにかかっています。昔ならそんなことはありませんでした。ウイルスなんて居ませんでしたから。

 産卵の遅れは体調が崩れた証拠です。
いつウイルスが密かな働きから、猛烈に動き出しても不思議はありません。産卵が遅れるぐらいで済んでいるのは、成魚ならではの幸い時かも知れません。若い魚では他の条件が重なれば、発症しているかもしれないからです。

 低温による産みの遅れは、主に一番子に言えることで、二番目からなら促進温度の働きが順調に推移していれば、相当の低温でも産んでくれます。 我池では12℃という記録がありますが、これは健康面と最高水温が安定して産、卵促進効果が十分な時の話しです。

 初産の時にはやっと産卵まで辿り着いたようなもので、ちょっとした抑制要因で遅れてしまいます。

 自然産卵を補助的に迎えるには最低水温を安定させる。
自然産卵を接極的に迎えるには且つ最高水温を安定させます。
その時の最高水温対策がウイルス対策と上手く重なり合うことになり、産卵を促進しながら、且つウイルスの活動を抑える二重効果が期待できる訳です。

 さらに、最低水温を管理すれば完璧です。
鉢数が数鉢ならそこまでこまめにできるでしょうが、鉢数が多くなるとそうもいきません。
順繰りの最高水温程度なら隔日でよく、比較的管理できます。
より完璧にと最低水温を上げて25℃に近くし過ぎると、ウイルス対策としては良くなりますが、産卵対策としては逆効果になりかねません。

 その逆効果とは、鮒尾を増やしてしまうことになります。
この時に鮒尾対策を加味しないと、ウイルスを抑え健康を維持して良く産卵してくれても、鮒尾ばかりなんてことになりかねません。
この兼ね合いは難しい面をもっていますが、数年困難な経験を踏まえて何とかなるのではないか。その辺りまで漕ぎ着けたところです。

 鮒尾に象徴していますが、本来の遺伝子が現れずに、鮒尾方向の遺伝子が出て来ることを言っています。
軽くてツマミが多くなり、重くなると次第に鮒尾へ近づいて行きます。

 先日何故そうなるかのヒントをもらって閃いたので、自分の中では納得しているところです。
最初は健康的に卵を産んでくれるので喜んでいましたが、どーも鮒尾が多いような気がしてきました。
ですが、卵が産まれてからの30℃以上は、鮒尾率を高くすることが分かっていましたが、まさか産まれる前のお腹の中で30℃の影響を受けることが、鮒尾率を高めるところまで気が回りませんでした。

 その時の卵を産み終わった雌の産卵口から、まだ成熟していない卵が顔を出す時があります。お腹の中の卵が、全部いっぺんに成熟すると腹に収まり切らないので、何回かに分けて成熟させています。
次の卵が成熟するまでにそれほどの時間がかからないようです。
成熟した卵を出し切っていない時には三日で産んだり、
産む卵数が少なめなら一週刊でも、
二週間前後が標準的なようです。
三週間を過ぎると何か事情があったな、と。
一ヶ月までが事情を乗り切る目安。
それ以上は異常と感じています。

 また、産み方にも違いが出てきて、正常卵がパラパラと産むが順調に出ない。
異常卵が少し出る、
死卵や白い液が出る、
腹が異常に膨れて卵を出さない。
一度産んだ雌魚が出し渋ったり、雄の精子が少ないのは、事情が生じたから、その事情の大概はウイルスの作用です。

 産後は必ずウイルスが動いている、と認識して下さい。
ウイルスはいつも狙っているので、産んだ直後から絶好のチャンスとして動き出します。
産んだその日に、遅くても明くる日には温度をかけて下さい。
産んだその日には餌を与えないことが多いので、より好都合です。

 予防ですから昼間だけで十分です。
心配なら昼間だけ2日続けても。
でも、それ以上3日続けたり、夜も下げなかったりすることは危険性が増してきます。
その危険とは、鮒尾率へ影響を与えることになりかねません。
治療的に一回で何とか納めようときつくしても、ウイルスは隠れるだけです。
また機会があれば何度でも出てきます。
無理をすればどこかにしわ寄せが生じる。
人間の都合ですれば何かが起こります。
自然に沿うように、自然的に過ごせるように手助けをする。
そんな風に心掛けて、温度管理は小忠実に無理せず行います。

 温度管理の一番の主旨は、健康管理です。
健康を保つために行われています。
治療は温度管理に失敗した時です。
温度管理を治療に使うことは、二の次です。
予防からちょっと手を伸ばせば治療になってしまいます。
その結果産卵期では、鮒尾へと遺伝子の発現異常を伴ってしまいました。

 産後の温度掛けを無闇にすることを控えるのは、卵の成熟が産後直ぐから始まっているからです。出来るだけ影響を避けるために、必要以上は危険とみなしています。
産卵期健康時の30℃以上は、必要最小限のウイルス対策のみとし、卵への影響を出来るだけ避けて、健康維持のみに留めるためです。

 卵の産み残こしがあった場合には、一日の温度掛けでも多少の影響を受けることは避けられません。が、自然でもよくある現象です。自然に沿っていれば、自然の範囲を超えなければ、異常事態に陥ることはありません。
産み残った卵へ温度をかけるのと同じですから、健康維持との引き換えを認識して、多少の影響は覚悟しておきます。

 私は出来るだけ時間をかけて産ませます。
産み残しの卵ががないようにするためです。
直ぐ産み終わる魚もいますが、昼近くまでかかる魚もいます。
一応の目安は次の成熟していない卵を見るまでですが、中にはそれからも出すのもいます。
次の未成熟卵を見せない魚もいますので、拘ってはいません。
ある程度産んで、しばらく経っても出さなくなり、腹が凹んだり、シブクなったら隔離しています。

 その日に産んだ雌親をまとめて昼過ぎ頃には、30℃から32℃へ。天気が悪い日が多いので30℃がやっとの日もありますが、効果はあります。

 逆にもっと効果を得ようと、早くに30℃へ達して33℃程を数時間与えたり、数日続けたりすることは、予防の範囲を上回って治療範囲へ入り、予防の必要範囲を超えた結果として、これも鮒尾率への影響が高まります。

 産卵期初期の雄親では、明くる日の方が良く出したりする時があります。また、長い間使わないでいると精子が固くなって受精しづらくなることもあります。
良型の雄親は連日活躍させたりしますので、その日に餌を与えなかったり与えたり、不規則になることがありますが、活役以前に温度掛けがなされていれば追った後でも元気を保てます。通常のように餌を与えても、30℃31℃までもって行くことができます。
また餌を食べるからこそ明くる日も頑張れる。
追い疲れに対処できる。
健康維持がなされていればこそです。

 健康な雌雄の場合では、
餌を与えた明くる日、
餌を多く与えた明くる日、
朝餌を食べてからの方が、産む可能性が増える魚がいます。
産卵期の初期には早朝の水温が低いので、食餌後の温度上昇が加わってから、昼近くになって産み出す魚もいます。

 忙しさに油断していると、やられてばかりです。
温度かけの効果で健康を保っていると、餌を食べてから産んでも、夜中や早朝に産んでもけろっとしています。疲れもなかったように、何事もなかったようにすましています。
うっかりしていると産んだことに気付かずに、
「おかしいな?あんなに膨れていた雌の腹がいつのまにか凹んでいる」なんてことになりかねません。
よく見ると鉢の縁に卵が打ち上げられていたりして。
そんな時の方が人間に邪魔されないので、スッキリ終わっているようです。

 雄は産卵前にキチッと温度をかけていれば、追った後温度を掛けなくてもいたって元気でいるかに見えます。
でも、意外と侵されています。
次の時に精子が少なくなったり、
追わなくなったり、
追っていても出なかったり、
中にはボーッとしたり、
曇りが濃くなったり、
追い疲れを見せたりします。
そんな時は機会を逃さず温度をかけないと、遅れたりすると後悔することになります。
でないと、その年の活躍を望めなくなることがあります。

 産卵疲れを癒すかのように、
はたまた自然の作用によって留まっているように、
雌はどの魚も産む気を見せず、
雄も一斉に追わず、
まるで関心がないように、すましていることがよくあります。
雌は産後すぐに温度を掛けていれば、あらためて温度を掛ける必要がありません。すると設備に余裕ができるので、雄へ一斉に温度を掛ける機会となります。

 30℃以上が雄へどのように影響しているか、詳しくはまだ確認していません。
でも、雌と同様と考え、おなじ影響を懸念して扱った方が、無難と感じています。
雌雄どちらかが30℃以上の影響を受ければ鮒尾率は上がり、どちらも受けていれば跳ね上がると解釈しています。

 繰り返しますが温度管理の一番の主旨は、健康管理です。
健康を保つために行います。
治療は温度管理に失敗した時です。
温度管理を治療に使うことは、二の次です。
産卵期に気を配って養生していれば、意外と元気で乗り越えてくれます。

 油断は、二、三番産み終わった頃。
もう卵を採らなくなった頃。
最高水温が度々30℃を上回る頃。
採卵するよりも選別に忙しい頃。
ついつい親を放っておく頃です。
気候も暑く蒸れる梅雨、最も危うい頃です。
我池では40腹で鉢は満杯です。
丸鉢が67鉢、40腹はやりくりが大変で、来期は30腹に留めようと思っていますが、本来は20腹が相当でしょう。
人に送るため採る分を入れると60腹になるでしょうか。
それでもまだまだ産んで100以上になり、採りきれない搾りきれない程です。
おまけに選別にかまけて見回りもしないので、昼間産んでも気が付きません。
産んでくれればまだ良い方で、卵詰まり、追い疲れされるのが恐くてたまりません。
でも、気を回す余裕をつくれません。
雌どうし団子になって産んでいたり、弱い雄が追われていたり。雌は産んでくれればいいほうで、卵詰まりで死なせてしまうのが毎年あります。

 防ごうと雌池に雄を一尾入れておき、追っていたら雌を搾るようにしていますが、もう産まないだろうと高を括り、雄を入れていないと中には四番五番と産むのが居て、見逃すことがあります。
すると、卵詰まりや、ウイルスでやられてしまいます。
今年卵詰まりでは二尾も失敗した。温度をかけなかった方はいろいろなことで数尾も。

 やがて梅雨明けが近くなる頃には、改めて温度を掛けないでも良いことがあります。かけた方が無難なのですが、つい選別にかまけて。

 いつまで続く温度掛け、そんな気にもなります。
ここで一気に卵も産まなくてウイルスも心配のないようにしよう。なんて虫の良いことを考え、もう卵はとらないのだから鮒尾率も考えなくていいから、と、最低温度25℃以上、最高温度30℃以上を数日かけたことがあります。
温度掛けを止めても、確かに少しの間はおとなしくなっていましたが、最低水温が25℃を下回るとまた産み始めてしまいました。

 梅雨が明けて高温が続いても、朝20℃へ近づくと産んだり追ったりしています。毎日の最高水温が30℃以上なので温度掛けの必要はもちろんありません。
もう温度掛けの煩わしさから開放されています。
でも、この追いようは、産み様は、温度掛けの副作用では無いだろうか。
この過剰なまでの健康はもしかすると、あるいは、なんて考えを回してしまう程です。

 結果産ませないためには梅雨が明けるまで、あるいは卵を吸収してしまうまで、
25℃と30℃以上の範囲を保たないとダメだということでした。そんな簡単に、人間の思うままにはなってくれないということのようです。
そこまでやらないと不可ないのか。
そこまでやるべきなのか。
結局、人間の都合だけでぐるぐる回っている。
ちょっと自分がやるせなくなってくる。

 やっと梅雨が明けて安心できる土佐錦の夏がやって来た。
ウイルスを忘れることの出来る夏。
温度管理を忘れることの出来る夏。
ひたすら毎日の水換えと餌を与えることに集中できる夏。
チリチリと肌が焼け、水面の照り返しが眩しく、ギラギラした夏。
やっと昔の土佐錦を見ることの出来る夏。

 夏まだ盛りに思える八月立秋を過ぎると苔が変わり始める。
残暑よ出来る限り長く、暑く照ってくれ。
そう願わずにいられません。
苔が変わり始める信号は、日の傾きの合図、
日照時間が短くなった合図。
たとえ水温は夏でも、心構えはしておくようにとの合図です。

 水温が下がり始め、
もっと日照が短くなると生える苔が見つかると、魚へ直に曇りが付いて来ます。
水の変調をもたらす信号が苔信号。
魚の変調をもたらす信号が曇信号。
見逃さないように、覚悟するように、
曇り信号がハッキリするようなら手を打つように。曇りが酷くなったり、喉下が赤くなったりしたら、温度管理が必要になった信号です。

 予防ですから必要になる手前でするにこしたことは有りません。
まだ最高水温が高いので30℃以上は簡単に上げることが出来ます。
高温にすることを心配しないで、安易に出来るうちにしておいた方が安心出来ます。
気温が高い日を利用した方が速やかに上がり易く、夜は自然に下げるようですから、二日続けることも有効です。

*やっと涼しくなりだしたというのに、もう被害を受けている人がいると、風の便りが届きました。
主に当歳とのことですが、数多い丸鉢で温度管理をすることはとても難しいことです。
とりあえずは、発症した魚はあきらめ処分して、元気なのを角鉢へ集めて治療温度を掛けるようです。
まだ体力が残っていれば助かる魚もいるはずです。

 親もふらふらだそうですが、黄色い薬と温度で治療しておかないと、憂き目を見ることになってしまいます。
梅雨時にスッキリしないまま夏に入ると、高温でおとなしくしていたけれど、涼しくなった途端に頭をもたげてくる厄介物です。

 冬籠りでも同じことが言えます。
予防第一、総ての病に共通することですが、土佐錦には特に刻んでおくべきです。

 ブラインシュリンプで育った魚は一際注意を注ぐ必要があります。
その後の糸目は清潔な保存状態が鍵で、活きの悪いのはもとより、活きが良くても保存水の汚れは禁物です。
流し水で保存していると安全性が増すようです。

 さて、
大会までは是が非でも曇りを目立たない状態にしておかないと、他の方へ迷惑をかけることになります。
それまでは定期的と思える程に、忠実に温度をかけることを奨めます。

 温度掛けがいつでも出来るようにするために、高温を忘れさせないためにも温度掛けを小忠実にすると、それが予防となり、虚しく発症した時にも速やかな治療を可能とします。

 ついこのあいだ温度をかけたのにまた具合が悪くなった。
そんな時、温度管理は間違っていなかったのでしょうに、水の管理が、また苔の管理が思わしくなくて、重ねて発症を招いていることが有ります。

 会員から、具合が悪くなるときは水換えをした時になるようだ。
また、水替えをしないと具合が悪くなるようだ。
温度管理をする前の話しですが、両方伝わって来たことがあります。

 どうしてなのでしょうか。これは主に親魚の話しですが、抵抗力がある程度備わっているため、治るでもなく発症するでもなく、どっち付かずの小康状態が続いているからです。
今から思えば危うい冷や汗ものですが、そんな芳しくない状態からなんとか良くなって欲しいと、濃い目の水の人は薄くしてみるとおかしくなる。
薄目の水の人は濃くしてみるとおかしくなる。
感染している魚はいろいろな変化に弱くなっているからです。

 その一つが水の変化で、替えるとその変化について行けなくて、体調が悪い方へ傾いてしまったようです。
水の変化に伴っているので、水が原因かもしれないと察してしまいがちです。

 ウイルスの仕業とは思いもつかなかった頃ですが、それでも対処法は見つけて、治療法のみでしたが温度掛けを工夫するようになり、継続していた危険状態から脱することができました。それによって水換えは勿論、運搬にも、酸欠にも強くなり、色も正常を保つようになりました。

 この頃では日常に秋を感じていますので、忠実な温度掛けをしていても魚は最低温度で季節を感じることができます。
温度掛けの間でも秋を忘れずにいながら、最高温度で健康を保つことが出来ます。
(30℃以上に上がってから昼過ぎに下がり始めても、保温が良いと極端な温度差が出来ないことを前提としています)
こまめにしていると曇りも濃くならずに、肌を保つことが出来ます。

 いったん曇りを濃くしてしまうと治療温度と薬を使わないと取れません。
もし曇りが濃くなってしまった時には、漫然とそのままにして置かずに、まず治療温度へ、経過しても治りが遅い時には薬の併用を勧めます。
発症の直前で魚が保ち堪えている状態が濃い曇りと承知してください。

 温度が下がるにつれ、曇りが薄く付くのは仕方ないとも言えますので、健康範囲、曇りの許容範囲を保つように心掛けます。

 曇りの濃い薄いは主観的な判断によって決められ、こんなに濃いのにと思われる程でも、その飼い主は気が付かないでいることが有ります。
『何で病気になるのだろう?』当人は首を傾げていますが、発病は客観的にみると当然としか言いようがない程でした。
これで発病しなかったらその方がおかしいと思えるのですが、主観的基準が違うと健康基準は大きく食い違ってしまいます。

 土佐錦魚は元気な時が嘘みたいに、病気になると非常に弱い。それを踏まえて、元気でなくなりだしたら予防を心掛けるようになります。

 範囲を広くしないために触れないつもりでいましたが、今期すでに発病して死なせている人がいるようですから、予防以前の入り口だけですが、心掛けや原因に触れます。

 曇りの原因の第一は餌です。特に生き餌。生き餌の状態が良いか悪いかでハッキリとした差が出ます。

 繰り返しますが、活きの悪い糸目は食中毒や体調不良を招きます。
以前糸目を冷蔵保存していましたが、へたっていなくても、へたり気味でもう危険でした。
いくら洗っても与えることは出来ません。
たとえ元気なようでも水を頻繁に替えていないと、菌を培養しているようなものになってしまいます。
粒餌とて馬鹿に出来ません。
魚に負担をかけない餌を選ぶようです。
また、食べ残すようでは土佐錦を飼うには失格です。
食べ過ぎも魚の抵抗力を削いでしまいます。
この辺りは基本ですから、無意識に行われているはずです。

 第二は水です。
多少の食べ残しや糞を処理してくれる水。
菌を培養しないで、むしろ良い菌を増やしてくれる水が良い訳ですが、良い方へ働く水、その範囲を超えない、その範囲へ達する水。
その範囲に納まるように替えて、そしてその範囲を超える前に替える。ま、これも常識です。

 人より頻繁に発病する人はどこか基本の基準がずれているか、怠っていることが多く見られます。
そしてその均衡を維持してくれる苔が十分でないことが、原因となっていることに気が付きます。
それこそ苔は飼育の基礎と言える程です。

 でも頻繁に発病する人は、往々にして意識していないことが見受けられます。
良い苔を生やすことは、環境の悪いところでは特に意識しないと出来ません。
苔の質と量そして清潔度。

 餌と水と苔は気をつければ何とかなりますが、自然の温度変化はどうにも操作できません。
冷えただけで体調を崩しかねません。
特にウイルスに冒されている魚は弱くなります。
自然に沿いながら温度変化が少なくなるような工夫、それが保温です。
底冷えに弱いので下からの保温、これは夏には暑さからも守ってくれます。
上からは屋根や蓋。掛けようですがかなりの効果があります。
温度ばかりでなく、水のところで触れませんでしたが、雨による水質や温度の急変も緩和されます。

 魚体がいろいろな変化に対して、どこまで対応できるかにかかっています。
ウイルスに汚染されていると極端に弱いので、普通これくらいならと高を括っていると、なんで?と、後の祭りです。
魚が弱らないように緩和することが予防となります。
過保護では有りません。
今まで述べたような原因になることは、極力避けるようです。今期は天候が入れ替わっているように、早く八月中に秋が来たかと思えば、九月にまた夏が戻って来たようになり、魚が体調を崩している便りが届きます。

 そんな人のために繰り返しまになりますが、もう少し詳しく基本的なことを書いて置きます。
うっかりしていると発症するのは当歳が危うく、次に二歳で、
冬籠り前なら角鉢に集めて温度をかけることが出来ますが、数多い丸鉢にいる時にはおいそれとできません。
そこで極力原因に近づけない努力を心掛けることになります。

 この努力は、普段何気なくしていることです。
また何気なく出来ている人は病気になりにくく、意識していない人は頻繁に発病しています。
普段気を付けていればそれが身に付いて、何気なくできるようになる。
するともっと魚のためになることに気をつけるようになる。
そして徐々に高度になって行き、いつのまにか健康で良い魚が泳いでいるようになります。

 糸目では、
流し水保存で清潔にする。
溜まり水保存の場合はこまめに水を替える。
糸目が少しでも弱っていたら与えない。
長い時間だらだらと与えない。
食べ残さないように。
食べ残したら速やかに取り上げる。
食べ過ぎを避ける。
苔を食べさせる。

 粒餌では、
選定を慎重にする。
保存状態を良くする。(特に酸化に気をつける)
湿気を避ける。
粒餌は入れてから5分程でも食べ残していると食いが悪くなるので、すぐ食べるだけを与え、食べ終われば次を与える。
残っていたら取り上げる。
特に食べ過ぎを注意。
特に苔を食べさせる。
練れた置き水。
置き水に雨水を入れたり、蓋のしかたで蒸らしたりしない。
風通しを良くする。
水は置き水二日に努める。
その日に出来る水。または出来た水。
練れた水で魚に刺激を与えず、出来た水で保護する。
毎日元水で調整。
出来た水の範囲を保つ。
出来た水で雨に対処。
出来た水で冷えに対処。
出来た水で肌を保つ。
出来た水で体調を保つ。
出来た水で様々な刺激に対処できるようにする。
出来た水で苔を養う。
環境、天候に合わせた元水の量は人の手になる。
危険時期には病気対策として、早めの水換え。
古水にしない。
できるだけ陽が当たるよう努める。
後の水作りは苔に任せる。
役に立つ苔、水を作れる苔へ手入れをする。
苔の手入れで食べられる苔にする。
苔の手入れで栄養バランスを調節。
苔の手入れで浄化力を調節。
苔の手入れで酸素の調節。
苔の手入れで汚れの調節。
苔の手入れで浮遊藻の調節。
苔の手入れで入射の調節。
苔の手入れで体色の調節。
苔の手入れで肌合いの調節。

 ますます大会が近くなる頃では、日常に秋を感じているので忠実な温度掛けをしていても、魚は最低温度で季節を感じることができます。
温度掛けの間でも秋を忘れずにいながら、最高温度で健康を保つことが出来ます。
(30℃以上に上がってから昼過ぎに下がり始めても、保温が良いと極端な温度差が出来ないことを前提としています)
こまめにしていると曇りも濃くならずに、肌を保つことが出来ます。
肌合いは食欲や動き以上に魚の状態を知る目安になります。
抵抗力のある年長魚は少々のことがあっても食欲や動きに現れませんが、肌合い、色、曇りは微妙に状態を現してくれます。

 前に書いていますが、体調を崩し易くなる前兆の信号となる苔の変化、虫の変化に伴い、鉢の洗い方がそれように変わって来ます。
その辺りから何の心配もなかった親魚でさえ、注意することになります。

 当歳はいつも心配しているようなものですから、慣れてしまっているようなものです。
経験を積んでいると、限度が何となく感じられるので、
水が濁らないと『もう一日水替えしなくても』
逆に透き通りがちな水を濁らせたいので『苔を掃除しなくても』
そんな心の囁きを聞くことが有ります。 そんな時でも誘惑に負けずに、苔を清潔にして元水を増やす水替えを手抜きなくします。黙々と。

 丸鉢数の多い人は、それしか当歳を守る手だてがないようです。

 大会前に曇りが付かなければ幸いです。
このところの雨で水換えをしていない鉢では、濃い曇りが付いていました。気を配って手だてを講じていれば、ついても薄いぐらいで済むはずです。
付いても許容範囲ならまあまあ。
大会で迷惑をかけずに済みます。
認識の薄い人は曇った魚を下げて来ますが、迷惑この上ないことです。
曇りの濃い魚は病魚であると同時に、他の出陳魚へうつす可能性を持っています。
シッカリとした認識を持ち健康維持に努めて下さい。

 大会が終わると気が抜けるものです。
冷えも来ていますので、そこに油断が重なると発症を招きかねません。大会前からの心掛けを失わず、冷えで低温に接していても、温度掛けの間隔が長くなっていても、いつでも高温域へ入れるようにしておきましょう。

 御度掛けを心掛けている人には、止めても平気かなっと思わせる程発症しませんが、見くびって具合が悪くなってからでいいや、としている人程、後で悔やんでいます。

 大会時期を無事に過ごせたら冬籠りへの移行期です。
角鉢へ順繰りにしていた温度掛けのお陰で苔の維持ができて、冬籠り受け入れ態勢となっています。
そして、鉢そのものを温度消毒しているようなものですから、良好な状態を維持しています。
魚の色艶が良ければ、何の心配もなく冬籠りに入れます。

 籠る前の温度掛けは治療状態にした方が効果があるとして、シッカリ数日かける人がいます。
確かに治療の方が効果はあります。
ですが、逆効果的に魚は夏なのか冬なのか迷ってしまいます。
真夏から真冬への急激な移行にもきついものがあります。
籠り前には卵の元が出来ていると聞いています。
それに影響を与えないとも限りません。

 前にも触れていますが、治療中は絶食が原則です。健康状態で温度が上がる訳ですから、猛烈な食欲を見せます。つい餌を与えたくなります。餌を与えると大なり小なり確実な形崩れを起こします。

 たとえ餌を与えなくても三日以上に渡ると、顔や腹の形に妙な影響が出て来ます。
それに対して治療を施してあったにしても、環境が悪ければ直ぐに再発して元の木阿弥です。

 予防程度で良いのか、治療の方が良いかに迷う必要はありません。
発症していなければ必要以上はしない方が良いと、記憶して下さい。
予防にしても必要以上は慎むべきです。

 予防の原則は朝食餌後自然のようにすみやかに30℃以上へ上げる。
午後おおよそは14時頃ヒーターを切り、自然のようにすみやかに温度を下げる。

 たとえこのような予防でも自然を変えて操作しています。
それもこれもウイルスに対応するためです。
対応できればそれだけでいい。
それ以上は自然を曲げていることになります。
自然を曲げていれば気が付かないだけで、どこかに歪みが出来てきます。
人間の思いなんかは都合の良いことしか考えません。
自分の思いはなるたけ控えて、自然に沿うべきです。

 以前触れていますが、温度掛けによる相乗効果は有り難いものです。
温度掛けを始める頃には夏苔はスッカリ取れて秋苔になっています。冬籠りする頃には秋苔の勢いも弱くなっているので、温度掛けにより秋苔の勢いを維持回復することが容易となります。よく茂った苔を維持することによって、水の維持、空腹時の餌の確保、冷え込み防止と出足から心配を無くすことが出来ます。

 秋苔が維持できていると浮遊藻の優勢を阻止することが出来、過度な濁りをおさえて透明感をもつ水となり、付着藻優勢を獲得します。
それによって良好な浮遊藻の選抜効果を得ることも出来ます。

 濁りが少なくなると心配する人もいます。
他の魚種では、濁らせる必要性を支持しているかも知れませんが、こと土佐錦では、普段から透明感のある青水で飼育しているため、冬籠りに際して濁らせる必要を有しません。
また、透明感があっても長い籠り中には古水状態になるので、十分な効果を得るには事欠きません。

 順繰りでも籠りに使う鉢総てで温度掛けをすることによって、鉢そのものと苔の消毒的効果を得られます。
魚そのものからウイルスが感染するのか、他に何かを介しても感染するのか。
そこには当然水が介し、苔が宿になる可能性があります。

 苔の種類、苔の色、苔の状態が良くない時に感染、発症がよく起こることから、ウイルスにとっては苔にも何らかの役目があるものと感じています。

 温度掛けは魚と同時に水、苔、容器全体のウイルスを抑える効果も持っているものと感じています。 冬籠り前は冬籠りさせる鉢総てで魚の健康維持とともに、鉢の内容すべてのウイルス抑制効果も意識しするように心掛けます。単に隔離鉢のみで行わずに、飼育鉢で温度管理を行うことが肝要となります。

 健康な状態で冬籠りに入ると、冬籠り中や冬籠り明けまでも案外心配しないで済みます。
冬籠り中は真夏と同じように本来心配の少ない時期だったのですが、近年は意外と苦労している人を多く見かけます。
それは、籠る前の健康状態を万全にしておかなかったからで、籠り中、籠り明けと常に心配がつきまうことになります。

 (籠り中の心掛けは温度管理とは別の機会に)

 冬籠りを無事通過したものとして、温度管理の春の心掛けに移ることにします。

 低温による新陳代謝低下や古水の作用で、多くの魚は多少の曇りを付けていることが見受けられます。

 明けてから、しばらく水替えを続けると大概は取れて来ますが、もし取れにくい、取れない、魚に冴えがないようなら、それは籠り前の養生に行き届かない面があったからだと、気が付くべきです。

 籠り中の事故や籠り明けの水、温度の急変、餌の与え方も失敗を重ねることで考えられます。
どれも籠り前の養生不足のまま籠りに入ってしまったことが、春になっても変化に弱い体質を引きずっていることに起因しています。

 その微妙なようでも見慣れた魚の不調を気が付かずに、春の世話を普通にしていては取り返しのつかないことになりかねません。

 気が付いていても、気が付いていなくてても、たとえ魚が元気と感じていても、感染を確認した魚も未確認の魚も、春は温度管理を始めた方が無難となり、また産卵を順当に向かえ且つ安定して進めて行くことを獲得できます。

 繰り返しですが、魚だけでなく収容環境全部の悪条件を温度によって抑え、あるいは消毒でき、魚の新陳代謝を目覚めさせ、なおかつ活発にして、危なげない産卵活動へと導けるからです。

 30℃以上へ至る準備段階も自然の推移を意識し、改めて自然を真似るよう心掛けます。
重要かつ最大の不安を抱える産卵期を、すぐそこに控えているからです。慎重に、魚体は勿論、来たる卵や精子への影響を考慮しなければなりません。
無理せず、穏やかに。

 我池では早くて彼岸、遅くて桜の咲く頃に明けますので、それからしばらく経てば既に自然でも最高水温は高温域への予備段階20℃の中点越え、もしくはその近辺をを経験しています。

 一段階目の20℃は既に経験していますので、産卵促進温度25℃の二段階から始めることがほとんどです。

 ここまで異常なく来て、そのままの推移で産ませれば何てことない訳です。が、ウイルスに侵されていると、ここからが危なくなります。

 軽いときには、食欲がある、元気もある、だが何故だか産まない。

 少し進んでいると、太りが悪く、何か冴えない。

 一度は産んだがその後体調がすぐれない。
こんな症状がウイルスによって起こっているとは、ついぞ気付かないことがよくあるからです。

 産卵を安定的に行うつもりぐらいの意識で温度管理を始めたら、去年より順調だった。これで、ウイルス対策としての温度管理は成功したと言えます。
産後はウイルスを意識して温度管理をやってみたら、魚は調子を崩さなかった。三番四番まで産んでくれた。
なにげなくウイルスから普段を取り戻すことが温度管理です。

 予備段階の温度掛けから始めて一挙に30℃へ上げないのは、魚の対応がまだ低温域になっているからです。
予備段階の温度上昇の方法は、治療でもなく予防でもなく温度を経験させることによって、魚の温度対応スイッチを高温域へ切り替えることが目的です。
やはり自然の上がり方や下がり方に似せるので、比較的緩やかになるはずです。

 明けてから最高水温20℃を経験していない場合でも、まず第一段階の20℃を経験させてから、日を隔て高温域への第二段階25℃へ進めば問題は無くなります。

 三寒四温の暖かい日を選んで給餌後徐々に上げ始め、昼過ぎに第一段階では20℃に、第二段階では25℃に達すれば良い訳です。
昼過ぎに経験させれば十分です。
経験させるだけですので、加温していない鉢で温度が下がり始める頃には、同じようにヒーターを切って下げるようにします。

 加温を始めたら過度な冷え込みはできるだけ避けて、養生保温を忘れないようにくれぐれもお願いします。

 第一段階の20℃から始めるのは、また始めなくてはならないのは、
早く産ませたくて無理して明けさせてしまった時、
明けてから早期に行わなくてはならない事情の時、
籠り明けて間もない頃魚に何らかの変調を見つけた時、
全部ちょっと無理をしている時です。

 未だ治療をする程ではないが何となく不安要素があると敏感な人が感じた場合、なるべく早く30℃以上へもって行こうとすることがあります。
籠り明けの早い人、また明ける必要が出きた時は未だ20℃を経験していないことがほとんどです。
当然一段階目の20℃が目標になります。

 このときは低温域から始まりますので目標高温を20℃としますが、目標低温は10℃より下がらないよう確保します。
籠る程の低温域を思い出さないようにするためと、中温域への新陳代謝を目覚めさすためです。
昼間20℃に上がった時養生保温してあれば、通常は10℃を保てるはずです。
朝給餌後落ち着いたら、陽当たりの良い時の様にすみやかに20℃へ上げます。
隔日で2、3回無事経過すれば、次の第二段階へ進めます。

 第二段階は目標とする最高水温は25℃ですので、最低水温の目標は15℃となります。
これで20℃を中点としての経験を得ることも出来ます。
さらに25℃を経験することによって、30℃を目指す準備ができます。

 第一段階と同じ要領で朝の給餌後落ち着いてから、陽差しがあたった時の様にすみやかに上げます。
隔日で2、3回無事経過すれば、次の最高水温目標30℃以上へ難なく進めます。

 籠り明け後何事も無く順調な世話を進めることができていれば、高温は自然の成り行きに任せています。
この場合は産卵準備としての温度管理をしているので、
30℃以上を求めるウイルス対策の温度管理を始める前として、最低水温の推移に気を配ります。
産卵を進ませることより、冷えから保護して体調を崩すことを防ぎ、冷えにより産卵が遅れないことに重きを置きます。

 このように順調な時は、自然の推移で第一段階を経験していることが多いので、ウイルス対策の温度管理は産卵対策を兼ねて、第二段階からが始まるのが普通です。
第二段階の準備高温値25℃を経験することから、ウイルス対策の温度管理が始まりを告げると言えます。

 温度管理を始めるにあたり、注意しなければならないことがあります。
魚の不調を見抜けなかったり、健康状態を上手く把握できていない場合には、案外頻繁に起こることです。

 既に発症していることに気付いていない魚、

 また、発症を免れていても小康状態の魚は、
予備段階で発症したり症状が進んでしまう可能性があります。

 折悪しくそんなことに遭遇してしまった時、気が付いたら直ぐに治療へと切り替える必要があります。
不幸中の幸い的に既に温度を上げ始めている訳ですから、多少の無理はあってもそのまま上げることが可能となっているはずです。それほど発病してしまった魚は、せっぱ詰った状態と言えます。

 長いあいだ漫然と過ごさせているより、早期発見出来たぐらいに思って前向きに治療して下さい。

 温度を掛けることにより、かえって病の重篤を招いたことになりますが、温度をかけていなかったにしてもわりと近い時期に、いずれは発病していたはずです。
そしてその時にはもう手遅れとなっていることが多く、ウイルスに準備期間を与えている分被害は拡大し、重大な事態になっているはずです。

 それは、魚を取り巻く環境自体が常に発症を招き易い状態に変わりないからです。

 発症し易い環境に気が付いていない時、気が付いていても環境改善が無理な時には、温度管理が救いの手立てとなるはずです。

 注意するところは、最高水温ばかり気を配らずに最低水温にも気を付けて下さい。
加温したり、餌を与え出したらその時の最低水温より過度に下げないのが、魚へのいたわりになります。
何度も繰り返して言っていますが、そうして徐々に最低水温は上がって行きます。
最低水温が安定してこそ、最高水温が活きてきます。

 夜、蓋等保温をこうじず朝の冷えが厳しいところでは、産卵促進温度25℃を経験させたうえで最低水温を低下させると、かえって無謀となり産卵へ悪影響を与えてしまいます。

 未だ30℃に達していないことから、かえってウイルスに元気を与えかねません。
中央点の20℃を下回ったところを見計らい、養生をしてあげる気遣いも温度管理の内となります。

 30℃以上への段階温度25℃を2、3回経験すると、代謝が活発となり健康体ならそれだけで、曇りが付いていても薄くなるはずです。
経過温度ながら25℃は産卵促進温度となっています。
同時に雌の腹は柔らかみを増し、雄の追い星はハッキリとして来ます。
気の早いのは追う素振りを見せるのも出てきます。

 いたわりによって色艶も良くなり、肥りも増して、30℃以上を経験させる用意ができて、30℃以上を待ち構える状態となります。

 見た目に状態が良いと「もういいか」なんてここで止める人がでてきますが、絶対にいけません。
この先自然に過ごさせるか、このまま温度管理を続けるか。
魚が元気になると処置が面倒に思えたり、もう元気だからと案外油断が生じるものです。
ここで温度管理を止めることは、危険を増した不安定な自然界へ身重な錦魚を放り投げることと同じです。

 一見元気な魚の内側ではウイルスが待機して変調を待ち構えています。
途中で止めることは、危険を回避するはずがウイルスに好機を与えることになりかねません。

 この時期はそれほど不安定で危ういものを含んでいます。
ウイルスは今か今かと伺い待っています。
ちょっとした不注意でさえ産卵に悪影響を与え、あまつさえ親魚に異変を招き易い時期を迎えようとしています。
危うい時期の温度管理は、気を抜けないものとなります。
危うい時期の温度管理は、日常的にウイルスへ対抗できる唯一の処置です。

 今までの処置は、30℃以上を経験させるための前段階だということを思い出して下さい。
そして、経過措置25℃からウイルス抑制目的の30℃以上への間を長く空けることも、うかつな行動となります。
天候等を見計らいながらの隔日ではあっても、意味なく長日空けない方が安全です。

 さあ、産卵へと心置きなく向かう処置はこれからです。
25℃の経過措置が済む頃には、産卵期の入り口になっている頃です。
30℃以上への温度掛けも25℃と同じように、自然の推移に習うよう心掛けます。
25℃が30℃以上へ変わっただけですから、慣れたものとなるはずです。
自然に沿う方がかえって楽だと感じるようになるのも、この頃です。

 私は14時から15時頃になるとヒーターをコンセントから抜いて、明日する次の鉢へ移してしまいます。
そして明くる日天候が温度掛けに向いていれば、魚が餌を食べ終わって落ち着く10時頃になると、コンセントに差し込むことを繰り返します。
電源容量の都合で暖かい頃で一日に8鉢、最短4日で一巡する感じです。
冷えてくると一日に4鉢ほぼ10日で一巡、冬籠りまでこのペースが続きます。

 30℃以上を経験させることは、鉢や水や苔を消毒する意味もあります。
冬籠り前には是非済ませておきたいことです。

 その鉢で卵を孵す時にも必ずして置きたい処置です。
鉢の水に、苔に、エアーストン等器具にと、鉢に居るウイルス全体も抑える効果があるからです。

 ウイルス抑制温度30℃以上は産卵誘発温度30℃を兼ねています。
隔日に2、3回経験させることは、温度管理で出来る産卵受け入れ態勢を、総て整えることになります。

 我池では3回の経験を待たずして、1回か2回で産卵を迎える例が多く見られます。
秋の養生が功を奏して、冬籠りが順調で、春の予防措置が必要ないと思えるほどの健康体なら、温度管理の措置はそのまま産卵誘発へと働くからです。

 措置を施す頃はに産卵することを踏まえて雌雄を共にし、最低水温18℃を保ち、失敗しても17℃より下がらないよう努めます。

 実感としてはウイルス対策をしていると言うより、産卵の安定化を図っている、そんな感じでいます。
ウイルス対策の温度掛けが成功していると、魚は元気な普段と変わりないからです。
いよいよ雌の腹はふにゃふにゃに、雄はいっそう追うようになってきます。
安心して余裕の内に産みを待つことが出来ます。

 採卵すると雌雄分けをしてその日の内に温度掛けをします。
これも予防措置と変わらない自然に沿った30℃以上への温度掛けです。
産卵疲れが出ないうちの素早い措置です。
疲れを感じさせない積極的な措置です。
言わずとその日は餌を控えます。

 実は餌を与えても平気なほど元気ですが、温度掛けの間に出来るだけ卵の成熟を控えるためです。
また、次の産卵日との間隔を出来れば二週間空けたいために餌を控えています。
生き餌を量与えると早く産んでしまううえに、与え過ぎると産卵期でも以外と瘤が付いて、形崩れも起こしてしまいます。

 産後の温度掛けはその日が望ましいのですが、遅くても明くる日にしてください。まだ間に合います。
疲れはウイルスによって出始めていますが、十分抑えることが出来ます。
これを怠ると一日送れるごとに産後の疲れが、ウイルスの働きを招いてしまうことになり、悪循環として疲れをより酷くしてしまいます。
最悪の時には死を、軽くて次の産卵が遅れたり、止まってしまうことが始まってしいます。

 採卵した日に、遅くても明くる日に温度を掛けるのは、ウイルスを抑えるだけでなく、卵への影響をなるべく避けるためです。魚の腹の内では次の卵が直ぐさま、成熟へと成長を始めているからです。

 温度掛けを経験して初めて解ったのですが、遺伝子の発現、形成の出発点は産まれて受精して分裂を始めてから決まるのではなく、
[早くも親の腹の内で始まっている]と言うことです。

 これに気が付くにはかなりの経過を必要としました。
理科的教育では受精してから遺伝子の結びつきによって決まり、また、それからの環境によって分裂は影響されると教わりました。
卵が雌の腹の内の成熟過程に於いて既に出発点を定めている。
環境が体内の受精する以前の成熟過程、成熟卵へ影響を及ぼしている。
受精以前に環境から影響された遺伝子は、影響した環境に適応する遺伝子を選択している。
こんなことが本当に体内で行われているのだろうか。

 行われているとしか考えられない。
この働きはメチル化の一つではないだろうか。
受精前メチル化、卵形成時メチル化とでも言うようか。
温度帯で異なった働きをする種々の酵素の内で、環境が与えた温度の要因によって、メチル化を行う酵素が選択されいるとしても不思議はない。
その働きは受精後より受精以前の方がむしろ行われ易いのではないだろうか。

 別の角度からとして孵化時の水温を見ると、孵化前後の水温を25℃に保った場合、鮒尾率の高いことは経験値となっている。30℃になると鮒尾率の上昇は明確となる。
また低温も深まるほど鮒尾は出やすくなる。
受精後のメチル化による変化、あるいはメチル化による対応と受け止めて良いのではないだろうか。

 このメチル化は受精後のみに限られるものだろうか。
大きく見れば受精後孵化までに限らず、浮出後の成長過程、魚の一生のあらゆる事態に置いても起きている。
イジケやオバケもその内ではないだろうか。
その場に適応した遺伝子を選択するということは、メチル化に他ならないと見ている。

 そのメチル化が卵、精子の成長過程で実行されても、生命の神秘を否定することにはならない。
それ程魚類のような環境に左右される生物は、強かに命を繋いで来た。
むしろ人間がその神秘へ触れる機会を得たことに、喜びと畏敬を感じざるを得ない。
自分の遺伝子の奥底で同調する震えが伝わってくる。

 別の例だが、同じ雌雄で何度か採卵した場合でも、一番子、二番子、三番子でかなりの差が出る時がある。
この差は、受精時雌雄の遺伝子の出会いの差だけだろうか。
一般的には、産まれた時の環境、産まれた後の環境、一番子の早期の温度と二番子の中期の温度、さらに三番子の産卵後期の温度相違がそうしていると言われている。
だがその温度差は主に、産卵日の放卵までと受精時、孵化前後の影響がとり沙汰されている。

 そのためムラが起こることを防ぐため、受精後の水温を20℃前後にして孵化までの安定化を図ったりもする。
ならば、産卵時、受精後の温度を同様なものとしたら、各番子間の差は一定範囲に納まるものとなるはず。
だが、その差に歴然とした違いが出てくる時があることは、経験値として偽りない。

 その場合、雌雄の産卵前、産卵時の状態の良し悪しが取りざたされて来た。
親の状態が良くなかったからその時の卵は悪かった。
親の状態が良くなかったからその時の子が悪かった。
こんな具合に。
その場合、死卵、受精、孵化等への影響なら卵、精子の健康状態として素直に頷ける。

 だが、子の出来の良し悪しとなると遺伝子の状態ではないだろうか。
雌雄の産卵前、産卵時の状態の良し悪しとは、とりもなおさず、両親が腹内に抱えている卵と精子の遺伝子の状態を意味する。
そんなことを今までなんとなく意識せずに、何気なく親の状態と表現していたのではないだろうか。
両親の調子でできる子が違うと言う風に。

 受精後の状態のみの影響であれば、温度等条件が一定なら、遺伝子の結びつきのみによる状態の似た範囲内で、一定に収まるはず。
雌雄の状態の良し悪しが産まれた子の出来に影響しているとなれば、親の体内で既に何らかの影響を受けている。
既に遺伝子の働きが影響され、相違が出来ていることになる。

 産まれた後の環境の影響以前、そして受精以前、
産卵以前の環境の影響が親の状態を左右している。
親が受けた影響が卵や精子へ作用を及ぼしている。
と言えるのではないだろうか。

 もしそうならば、意識的な温度掛けによってその違いが出てくれば、納得できるはず。

 それに焦点を合わせた意識的温度掛けによる、実験的採卵、飼育をしてみることにした。
意識していなかった時の温度かけによる治療後の卵は、
「鮒尾ばかりだ」そんな印象でした。
でも、治療後には良く産むので、ならば治療の用に温度をかけて産ましてみよう。
それをしてみると、病後でもないのにそんな子もやはり鮒尾が圧倒的でした。

 治療後の再現として、始めは病気でもないのに効き目がハッキリしていた治療措置を、産卵前の温度掛けとして再現してみた訳です。
30℃以上を二十四時間三日続ける。もしくは数日間。
魚はすこぶる元気になり、温度が下がると二、三日中で産む程効果があり、相変わらず採卵、健康面では申し分ないものです。

 採卵後、卵の温度は18℃から22℃を保っていました。
採卵後は更水を一定条件のもとで使用。
古水、飼育水等による不安定な影響を避けました。
他にも産卵後の影響は極力避けるようにしています。

 孵して、育てて、選別してみると、もの凄い鮒尾率で、鮒尾への過程を示す奇形的魚も多く、それを入れると100%と言いたくなる程でした。

 この極端と言える鮒尾率は、採卵前の温度掛けによる結果とする以外に、原因を求めることが出来ません。

 それでも重ねて同じような温度掛けを何度か繰り返してみると、多少のムラはあるものの似たような高鮒尾率を示す範囲内の結果です。
そこで、温度掛けを緩和する方向へ変化させてみたらどうなるか、試してみることにしました。

 まず30℃以上二十四時間の日数を減らしてみることに。
すると、鮒尾率が下がり始めました。
(この鮒尾率は正常な鮒尾率ではないのでこれからは異常鮒尾率として区別します。また、初期の選別では一見正常な土佐錦の尾のように開いていても、後の選別に耐えない率を、異常土佐錦率として区別します)

 30℃以上二十四時間を一日にしてみると、ばらつきはありましたが異常鮒尾率はさらに減り、異常土佐錦率が増えて来ました。
この方向性はハッキリしたものなのだし、健康的にも支障は出ていない。
これは発症してからの治療でないため、魚の不調への心配がないからだろう。
温度上昇が治療効果、予防効果をもたらしているからにほかならない。

 そこで健康的には心配が増えるが24時間を止めて、日中だけ30℃以上にしてみたらどうなるだろうか。
心配な健康効果を補うために、まずは数日続けてみよう。

 朝の給事後早々に昇温、夕方暗くなり出したら降温を三日続けると、健康効果は十分得られ、異常鮒尾率はさらに減り、異常土佐錦と、まともな土佐錦も増えてきた。

 そこで、朝給事後落ち着いてから昇温、夕方早めに降温をして、30℃以上の時間をより短縮して、一日にしてみたらどうなるだろう。
正常に近づいていることが感じられ、秋になってほとんどハネなんてこともなくなり、率は良くなくても、種用も会用も出て来て、なんとか魚を育てる甲斐も出て来ました。

 だったら自然のように、
産卵期にしばしば見られるような暖かい日のように、最高水温30℃以上を出し、自然のように下げてみたらどうなるだろうか。
無理を伴う治療の延長線上だからこそ、不自然と言える異常状態が生じてしまう。
自然に沿うようにすれば、自然と同じ状況の卵として産まれるのではないだろうか。
自然のように日の高いとき最高水温30℃以上へもって行き、

 自然のように日が寝て来たら下げ始めて、

 自然のように日を隔ててしてみました。
すると、鮒尾率は自然と変わりない率と言うか、初期の選別ではほとんど通常と感じられる程です。
しかも、健康効果にも不満はありません。

 それでも選別を重ねて行くと、何もしない時とは違う雰囲気が受け取れる腹が現れ、良い癖悪い癖が特徴的に同居した特徴的な範囲と、通常範囲に収まる腹がばらつきとして見られるようになりました。
でも、これぐらいならこの試行段階に限られたことでなく、普段にも見られる程度となる。

 これなら、【温度掛けは産卵期に向かないかも知れない】 とする決定的な不安要素を解消するに至っている。
親を危機におとしめることなく、健康を保ち、且つそれなりに子を採ることが出来ている。

 卵の問題はこの辺りならと、大方の見通しがついたと言えそうです。
今度は健康面でも最大の効果を得るには、この辺りをどう使いこなせば良いのだろうか。

 今までは、産むこと健康に産ませることを目的の一番にしていたので、産み易いよう産みそうな日の数日前に温度掛けをしていました。

 それを産む前に温度を掛けずに、産み終わってから間もなく掛けたらどうなるだろうか。
治療や過去の不安現象から解き放たれたせいか、新たな発想が浮かぶのは焦りが少なくなったからのようです。

 産後の疲れが引き金になってウイルスが動き出し、親の調子を崩してしまうのがほとんどのなり行きです。ならばウイルスに動き出す機会を全く与えないことが、健康効果として最も求められているところではないだろうか。
だったら産卵のため最好調に達していて、まだ活力が失せていない時の産卵直後にウイルスを抑えてしまえば、すみやかな体力回復へ、最高の状態で引き継げるのではないだろうか。

 だが、次に卵を産むまでの長い期間を健康に保つことが当然難しくなる。
もしかするとその期間に、危うさを招いてしまう可能性は高くなる。

 だが、疲れを出さずに最初からウイルスを抑えておけば、期間途中には自然で30℃以上の日がけっこうあるものだ。
もし、暖かい日が来ないのなら、自然的昇温をおこなえばいいはず。案外心配する程のこともないだろう?
むしろ、一番危険な産卵直後に処置する方が、健康維持には必ず良いはずだ。

 また成熟と言う観点から見る場合も合点がいくはずだ。
やってみなくては解らない。
とにかく、産卵後直ちの温度掛けをして見よう。

 産卵後当日に温度をかけてみると、思惑通り魚の調子は元気なままで、産卵疲れを全く見せなくなりました。
食欲を見せ、さっき産んだ魚だろうかと首を傾げる程です。
世話が落ち着いてから産卵記録をとる時に、どれが産んだ魚か、追った魚だったか探してしまうほどです。
餌をばちゃばちゃ欲しがるし、通常より元気?通常と見分けがつかない魚もいるぐらいです。

 この感じは何だろう。
産卵後の30℃以上は、産卵終息温度としての働きを一段と発揮するためではないだろうか。
産卵後の温度掛けは、産卵行動へスッキリとした終了感を与えているのかもしれない。
産卵態勢から通常態勢へすみやかな切り替えを行っているのではないだろうか。

 この切り替えは、温度が左右するホルモンの分泌抑制によるものだろう。
これで産卵後だらだらと尾を引く、無駄な体力の消耗を抑えることができる。
考えれば当然のことだが、思わぬおまけがついて来た。
しかも一挙両得に、そして一気呵成にウイルス抑制態勢へもって行くことができてしまった。

 ここでちょっとまた悪戯的な、ちょっと危険をはらんだ試行を思いついた。
30℃以上は産卵抑制温度だが、矛盾するように産卵誘発温度でもある。
その矛盾をどっちにするか、どっちかに選び分ける要素はやはり温度だ。
最高水温30℃以上は抑制と誘発の両者を有するが、最低水温も複雑に同じような働きをしている。
その両者の組み合わせによって、抑制に向かったり誘発に向かうことにもなる。
最高水温が30℃以上で、最低水温が25℃以上だと抑制となり、
最高水温が30℃以上で、最低水温が20℃前後だと促進となる。
この一例を利用して雌雄を分けている鉢の温度を、
雌は25℃以上に、
雄は20℃前後にすれば、
雌はそのままの終息感を強く持続し、体力の回復へと持って行くことができ、
雄はそのままの継続感を強く持続し、再びの採卵へと持って行くことができる。
そして再び放卵態勢の雌と一緒なにれば、もはや夢中へ。

 この巡る考えはちょっと言えず、かなりの危険をはらんだ試行となるだろう。
かなりの危険をちょっとの危険に留めるには、雄の体力の消耗をできるだけ抑え、かつ回復を図る以外にはないはず。
それならいっそ、雄へは産卵後に餌を与えてみたらいいのではないだろうか。
巡る思考はより危険方向へと回っているように感じられる。

 温度掛けによって産卵後スッキリしている魚は猛烈に餌を欲しがる。
試しに与えても体調を崩す気配はない。
それどころか追いが良くなる感じだ。
産卵後体調を崩していなければ、餌を与えても、連日活躍しても、なんとかなりそうな気が満ちて来た。

 もう一つの懸念は、産卵前日に30℃以上を経験すると精子への影響が心配になってくる。
体力の方はその時点で判るが、精子への影響は選別を重ねなくては判明しない。

 ええい、やってみなくちゃ解らない。
やってみると、調子を崩す雄はいなかった。

 一番子の場合、二日目の方が精子の出が良かったり、多く出る魚がいた程で、かえって良い結果となることもあった。

 二番子の場合は一日目、二日目の精子出方は大して変わらず、量は二日目のが少なかったり、多くなったりして傾向は掴めなかった。

 三日目は精子の出が少なくなることが多く、体力的にも不安が増し、内蔵の負担も多大となるので、結果を踏まえて二日を限度とし、二日目以後は使わずに休めることとした。

 一方雌は、産卵翌日に少し餌を与えると、そんなものでは足りないと盛んに催促する程です。
催促されてもそこは抑えて二日程は少なくしていますが、たとえ普段通りに与えたとしても、健康面へはやはり影響なしと感じています。
そこは誘惑に負けないようグッと堪えるようにしています。

 二日程、それ以上つぎの産卵近くまで餌を抑えるのは、健康効果を狙うほか、卵の成熟を遅らせることを考え合わせています。

 餌を少なくすると成熟が遅れるということは経験値です。
卵の数を多くまた早く成熟させるには、バランスがとれた栄養価の高い生き餌を与えると、効果的なことも経験値です。

 また、産み切っていなかったり、卵数が少ない場合は餌が少なくても早く産むことがあるのも経験値です。
ほとんど餌を与えないでいると産卵間隔は伸びて、卵数が減ることも経験しています。
ならば、温度掛けの影響を少なくするには。
温度かけの近辺では、成熟速度を出来るだけ抑えるように餌を少なくしてみようと言う発想です。

 そして、産卵予定日近くで一気に成熟をもたらし、温度掛けによる影響の少ない卵を産むように、餌を増やすことが有効ではないだろうか。
産む直前での温度掛けは、成熟を迎えた卵や精子の最終的遺伝子発現部位選定に、大きく関わってしまうのではないだろうか。

 産んだ直後の温度掛けなら、体力回復による未成熟卵や精子の成熟速度への影響は当然としても、発現部位選定までには至らないのではないだろうか。

 これをやって見ると
産卵当日、遅くても翌日に温度を掛けると、鮒尾率への影響も少なくなることが判って来ました。
おまけに産卵前日に餌を多めに食べた魚の方が、産みが良いという面白い結果まで引き出されて来ました。

 纏めてみると
産卵日に近い程、また卵が成熟しているほど温度の影響を受け易い。
高温日が続くほど影響は強くなる。
高温日が続かなく、日を隔ていても、産卵間隔中の高温日の回数が多くなるほど影響は強くなる。
(高温日とは30℃以上の日)
このような過程を経て、産卵後直ぐの温度掛けを採用するに至った訳です

 もし、上記に気を配っていても失敗してしまったら、その時の卵はどうすれば良いのだろうか。
これは数々の失敗した時の結果を踏まえて、心構えとしているところです。

*努力の甲斐もなくも発病したが、温度掛け後回復したとき。

*予防が過ぎていた時。

*何らかの失敗をしたのちの処理は、どうすればいいのだろうか。
いずれも事後処理のため積極的対策や決定的回復策はないのですが。

*発病後温度治療によって回復した時。
治療後は治療前に産めなくなって抱えていた卵を早く開放したいかのように、以外と直ぐに産んでしまうものです。
そのような卵はあまり良い状態とは言えません。
異常鮒尾率、異常土佐錦率の高いことが予想されます。

 既にもう鉢が卵で埋まっていて採っても置き場所に困る時には、採らずに搾って捨ててしまう。

 やっと採れた卵だったり、親が良ければ期待を抱かずに諦めを持ちながら、遺伝子の働きは気ままだったり強かです、何が出るか分からないので、労力の無駄を覚悟できるなら育ててみる。

*気を付けてはいたが、どうやら予防が過ぎていたのではと思える時。
期待を抱かずに育ててみる。
ハネは多く出ても、残った魚にそこそこ出て来ることがあります。
遺伝子の働きは通常とは違うものと感じられますが、捨てたものでもありません。
期待薄であってもひょっとするとひょっとして、意外な魚が出たりするときもあります。

*温度掛けにより何らかの失敗をした時。
失敗した治療と予防の間を取るようになります。
その度合いや空いた鉢の状況によって育てるかの目安をつけますが、鉢と体力と時間に余裕があれば、育ててみるのも経験や学びの内かも知れません。

 諦め半部ですが以外と思わぬ魚に会えるかもしれないからです。

 いずれにしても産ませないと卵がつまる恐れが出てきます。
卵詰まりは当歳の忙しさにかまけて毎年招いている不幸です。
採る採らないは別にして、搾ってでも放卵せることが寛容となります。
むしろ産んでいることに気付かず、中途半端にしてしまう。
産もうとしているのに雌雄を別にして合わせず、産む機会を逸して抱えさしてしまうようなことは、避けるようにしたいものです。

 産卵末期は高温時期に近づいて最高温が連続して高くなると、産卵抑制へと働きますが、朝の冷えは20℃を下回ったりします。
すると低温がかえって産卵促進として働く結果となり、もう産まないかと思っていた魚が産んだりします。
当歳の選別にかまけて親をなおざりにすると、貴重な種魚をなくしたりします。
(何らかの原因で敬遠する程の卵は、正常でないとして以後異常卵として区別します)
異常卵放出からどのくらいの間隔があけば、次に成熟する卵は正常卵になるのだろうか。
異常卵を全部出してしまった後に異常因子を受けていなければ、間隔の長短に関わらず正常卵と言えるはず。
しかし、異常をもたらしている環境因子があるとは気が付かずに、同じような繰り返をしていれば異常卵も繰り返します。
また、全部放出せずに異常卵となったままの卵が腹内に残っていれば、次に産卵した卵の始めのほうは異常卵の可能性が高くなり、何も変なことが無かったのに、なんで異常卵が生じるのかと不審を抱くことになり、正常卵の確率もその分低下します。

 産卵後自然に即した温度掛けをしたとして、それがなんらかの影響を与えていたとしても、成熟前の卵へ成熟を早める影響がたとしあっても、悪影響としては少ないものと感じています。

 簡単に試した結果では、温度掛けから二週間空いていれば、まず悪影響は少ないものとなりました。
一週間では影響が有る腹と無い腹が混じりましたが、以外と正常な働きをしている遺伝子が多いいと感じられます。

 産卵から一、二週間のうちには自然の気温が25℃程度に近づけば、水温は30℃以上になることもあります。
わざわざ温度を掛けること無く、自然界で行っているのですから、それには何らかの意味が有るはず、そう思って拘らないことにしています。
遺伝子の多くは正常値範囲の働きをしていると感じられます。

 例えば、陽当たりが良くても影を作らない我池では、六月末七月の卵は鮒尾が多いと感じています。
気温が暖かいときの話しですが、これは自然による温度の悪戯と捉えています。
それを愉しく捉えるか、苦々しく受け取るかで、選別に耐えて残った魚達の行く末が左右されてしまいます。

 温度掛けや自然高温による卵への影響が強い程、異常鮒尾率は高くなります。
異常鮒尾率は、一定範囲で異常土佐錦率と反比例するように減って行きます。
異常土佐錦率は、異常鮒尾が現れなくなる範囲から、正常土佐錦率に反比例するように減って行きます。
異常鮒尾率 ―遺伝子が異常に働き、鮒尾または鮒尾へ至る変形奇形が現れる率。
異常土佐錦率―遺伝子が異常に働き、形態は土佐錦だが本来の土佐錦でない率。
正常土佐錦率―遺伝子が正常に働き、通常的に本来の土佐錦が現れる率。
(通常は正常を省き単に土佐錦率)

 確率の悪さは正常に遺伝子が働いているかで決まって来ます。
働かなくなる要素として昔では、親魚の好不調、相性ぐらいに言われていました。
一番子より二番子の方が良いと言う説に象徴されています。
傾向として八十八夜前後産まれの子は良く、夏の子は率が悪い程度です。

 現在は、ウイルス等の感染が問題視されています。
すると二番子より一番子の方が良いのではと言う説に象徴されます。
二番子の方が調子を崩し易い、ウイルスの影響を受け易くなっているからです。
おまけに我池では、人為的温度掛けまでが加わっています。
これは人工的に夏を呼び寄せていることになり、温度掛けの結果は5月末、少し掛け過ぎると6月7月の産卵に匹敵してしまいます。

 正常に遺伝子が働いているか、そんなことはつぶさに見える訳では有りません。
今述べていることを科学的に立証した訳でもありません。
ただ感じたことです。

 土佐錦魚はどの魚でも、
採卵者が正常と受け止めている土佐錦が現れる遺伝子と、
そうでない主に鮒尾のような過去の遺伝子を備えています。

 どの遺伝子を働かせるか、人間でも魚でも意志での選択は出来ないようです。
環境によって遺伝子の選択は左右されますが、どの環境にも対応して子孫の存続、繁栄を成すためです。
そのためにも過去にその環境で適応して来た遺伝子を蓄積しています。
その遺伝子が必要且つ有用とはんだんした時、選ばれ働くよう誘導されます。
通常は劣勢あるいは控えていてめったなことでは現れませんが、異常事態の活用範囲時に活躍します。

 その対応は雌雄が掛け合わさる以前、環境によって決定されます。
それが今回、温度掛けによることで、異常な環境として捉えられたと解釈しています。
この遺伝子の対応の経験はこれからの環境悪化、様々な環境にての飼育、様々な土佐錦作出への大きな足がかりになると感じています。

 どの遺伝子が有用かの決定は、環境から遺伝子へもたらされる信号の種類や強さによって決められます。

 例えば、高温過ぎても低温過ぎても鮒尾が増えます。
何の根拠も無くただの推論ですが、高温のときと低温のときでは、同じ鮒尾でも選ばれる遺伝子が違うのではないかと感じています。

 金魚は低温方向への順応性が高く、多くの経験を重ねもっているものと感じられます。その一つが冬籠り可能な点です。
高温への順応性は低温より狭いと感じられます。
そこには既に遺伝子的住み分けが成されていると感じるからです。

 では、低温の時に選ばれ現れた鮒尾は、高温に耐えられないのでしょうか。
確かに高温は苦手と捉えています。
高温に耐えうる魚の比率は確実に下がるでしょう。
ところがその時になると、その魚が現在持ち合わせ受け継いでいる遺伝子の中から、高温に耐える部位を選択して働かすことが出来るはずです。
それを可能とした魚が生き延びて、また遺伝子を繋いで行くはずです。
遺伝子の働きの住み分け的分担と考えています。

 さて、
温度管理の方法的なことは繰り返し丁寧に書いていましたが、理論的なことになるとつい熱く語ってしまうようです。

 温度管理からは脱線しないように、番外編には触れないように努めていましたが、書き始めて6ヶ月を過ぎほぼ一年の温度管理を書いたせいか、気を抜いてしまったようです。

 これからは番外編と言えるかも知れませんが、温度管理後産まれた稚魚への手立てから続けさせて頂きます。

 温度管理によって無事誕生した稚魚は、どのような手立てを講じれば良いのか。
親からの感染を絶つことに努力すべきか。
感染は避けられないものとしてウイルス対策を講じるべきか。
この二者選択が始めから大きな課題となってくるようです。

 この二者選択の前に稚魚自体が既に感染していることはないのだろうか。
この疑問を解決することが先決のようです。

 稚魚が既に何らかで感染していれば、逆に感染元だったら二者択一は成立しません。直接ウイルス対策を講じるべきとなってしまいます。

 我池へ感染魚が来た時にはウイルスなんて考えもせず、今まで効いていた薬が効かない菌がやって来たと、四苦八苦していました。

 その魚は当歳でしたが、見る間に全部の魚に感染してしまいました。
そのことからして感染元は稚魚ではなく当歳を含む成魚と、その時は思い込んでいました。
もう一昔前のことです。
外国人の会員が
「ソルトレイクのブラインシュリンプはダメな菌がいる。」「かかると消毒が大変、いろんなことを何回もしないと消毒できない」

 せっかくこう言って教えてくれていたのに、その時にはピンと来なくていつのまにか置き忘れていました。
非常な後悔をしています。
その上その外国人は、「このブラインシュリンプは大丈夫」
と素晴らしい缶を提供してくれました。
いま思えば、そのお陰で我池には曲り形にも親魚が存在していると言えます。
なのに、そのことを確認するまで余りにも時間を掛け過ぎてしまいました。

 関心を持たなかった注意不足と、確認に年月を掛け過ぎた失敗が重なり、長期低迷に忍耐しなくてはなりませんでした。

 明確な確認をする前でも一部の会員には、ブラインシュリンプが感染元と考えていると伝えてはいましたが、この度ブラインシュリンプを販売しているところで、ソルトレイク産のウイルス感染を明記したと聴き、口外するに至りました。

 これまでに蓄積した稚魚に関するウイルス対策が役立ってくれるものならと、触れさせて頂きます。

 ブラインシュリンプを与えていた稚魚は一様に用心した方が無難と言えます。
それはいま販売されているほとんどソルトレイク産が多いからです。

 今期は中国産を使いましたが、これは感染を確認するまでの被害を受けませんでした。それは感染していないとも言える訳ですが、明確な確認は得ていません。
中国で販売していることは分かっていますが、産地がどこだか確認していないからです。

 ソルトレイク産を中国で輸入していれば、同じことになります。
以前に外国人の会員から頂いたメーカーの缶も新しく取り寄せてみると、どうやらソルトレイク産になっているような、怪しげです。
成績も怪しいような怪しくないような、芳しいものではありませんでした。
中国産を試しに与えた稚魚が少し成長してからソルトレイク産に切り替えたためです。

 中国産で異常が見られなかったその後に、明らかなソルトレイク産を与えたなら感染を確認出来るはずだと与えてみると、まぎれもなく症状が出ました。
そこで別の腹には別の卵を与えたのですが、他に感染した鉢が有れば最早隔離は難しいものとなっていました。
確かめることは出来ずに、馬鹿なことをしたと残ったのは後悔だけでした。

 来期はミジンコも試し、ブラインシュリンプは始めに中国産を、次に新しく取り寄せた外国人がくれたのと同じメーカーのを試し、ソルトレイク産を使わないでみるつもりでいます。もしこれで感染を確認出来なければ、初期感染はしていないことになります。
後は親や環境からの感染ということになります。

 ここからが二者選択となります。
もし、その取り巻きに感染魚がいれば、必ず感染してしまうのか。その印象は強く受けます。
そこで、感染したものとしてどう手立てを講ずれば、発症を免れるのか。または、発症しても軽くて済むのか。
ここで感染は避けられないものとし、ウイルス対策を講じるべきとの、二者選択の後者を進めることが明確になりました。

 経験上から水が汚れると、また古水状態でもウイルスは働き易いと導くことが出来ました。

 我池では宮地式を目標にしてきたため、なるべく水換えを遅らすことが目標でした。そこに落とし穴があった訳です。
極初期にブラインシュリンプによる軽い感染を起こしていました。

 おそらく、苔の少ない環境なら直ぐさま全滅していたでしょう。苔の浄化力のお陰で長らえていたと考えられます。
そんは稚魚達の症状は、

 素直な成長が感じられずに、餌を一人前に食べるが、餌の量に見合った成長が得られません。

 急な変化に弱いこと。水の変化、水替えによる変化、雨水による変化、水の出来による変化、古水への変化、汚れへの変化、pH変化、温度変化、餌の変化、日照の変化。

 酸欠に弱い。運搬に弱い。新しい環境に弱い、寒さにも弱い。
感染症状の稚魚では、片腹が多かったり、尾が溶け易く、感染症になり易く、何となく色が黒っぽくなってきます。
この状態を異常色と呼んでいます。
いくら食べても太りもせず、逆に食べると痩せてくるようでは汚染状態と言えます。

 親では病気がちで太りが悪い、消化器官に弱さを感じる、どことなく元気がない、鰓を抑え易い、浮き沈み等内蔵操作が上手く行かない、産卵に不調が有る、やはり変化に弱い、尾の先が避け易く、避けたところの再生が悪い、等々。

 今期の当歳は発症していないので再生力が保たれ、シワ抜きの付きが昔のように良くなっていました。

 変化に弱い中でも一番苦労したのが、餌の変化でした。
ブラインシュリンプからイトメへの切り替えでした。
それまでのミジンコを与えていた時には、糸目へ切り替えても異常を経験したことは有りませんでした。
ブラインシュリンプを与えていた稚魚にイトメを与えると、具合が悪くなりました。

 稚魚が小さい時であればあるほど顕著でした。
最初は国産のイトメでしたが、症状は現れました。
それが、イトメによるものかブラインシュリンプによるものかは、見極めがつきませんでした。
イトメを与えるとなったので、粒餌にしてみると発症が収まったり、出なくなりました。

 粒餌で出ずにイトメでは出る。
この結果から糸目に原因が有るのではと、早合点していた時期もありました。
直に輸入イトメになると、与えた途端にハッキリと起こるようになり、国産とは症状も異なることが感じられ、より危険度が増したためにイトメを断念して、粒餌で何とかならないだろうかと試行を始めたぐらいです。

 ブラインシュリンプから粒餌では発症の度合いがハッキリと違い、イトメを更に敬遠する方向となりましたが、粒餌で育てた稚魚には土佐錦の作りは望めないものとなり、粒餌による研究は困難を極めたため、僅かな年数で断念しました。

 そこでイトメで発症を免れている例を集めてみると、イトメの保存方法と、その保存方法と同じような魚への扱いが発症を抑えているのではと結びついてきました。

 イトメは流し水による保存法で、稚魚は汚れが気になると水を替える、どちらも水の汚れを留めていないことでした。
稚魚は始めての選別まで水を替えないのが通常ですが、宮地式ではことさらに延ばす方向です。
それが発症をし易くする条件になっていたことになります。
我池では苔が活躍して発症しづらくなっていましたが、苔の少ないことを仮定すれば、各変化が厳しくなり発症してもおかしく有りません。

 国産のイトメでも輸入のイトメでも発症を経験したことは、保存法が溜まり水であったとの共通項だと考えられます。
但し、国産では何かきつい今までの薬では効かない病気が出る程度で、全滅するような憂き目には遭いませんでした。
輸入イトメの場合はウイルスと輸入された菌による相乗作用と考えられ、流した池はかなりあります。

 いずれにしてもイトメは、流し水により汚れを流せば、たとえ影響への配慮が必要となっても、使えることが分かって来ました。
もしかすると、流し水は汚れと同時にウイルス繁殖の機会を流しているのかも知れません。
また、汚れが体内に残っているイトメの時には、確実と言えるほど具合を悪くします。

 稚魚の水換えも育ちを優先して作りを無視すれば、頻繁な水換えによって発症を抑えることが出来ます。
これによって作りを諦めることは辛いので、変則的であってもミジンコを水保持のために入れてみると、以外と効果がありました。
でもやはり、作りには物足りないところが残り、一つの実験として記録するに留まっています。

 ブラインシュリンプを余らせば、その上に腐敗するほどなら、努力の全てが無駄になるほど発症率は跳ね上がります。
また、ブラインシュリンプの孵し方も問題で、活きが悪いと食中毒として全滅を見たり、軽くて生き残っても汚染された魚を残します。
また、ブラインシュリンプの孵化容量の規定よりあまりに多く孵すと、傷みが早く、孵化器の中でウイルスが活躍出来る状態になっていることがあります。
また、稚魚の混み飼いも稚魚側のストレスが高まり、変調からの発症を招きやすくなります。

 ブラインシュリンプの孵化に際しては、孵化器を清潔に保ち、温度、塩濃度、孵化密度その他をブラインシュリンプの特徴に合わせますが、それでも孵化率が悪いときや孵化後直ぐ死んでしまう時には、エルバージュを塩水に入れると見違えるほど孵化率や生存率も良くなります。

 この方法は会員の皆さんの協力を得て開発されたものです。
注意点はエルバージュの濃度をあまり濃くすると、稚魚の育ちが悪くなります。
使用ブラインシュリンプへの必要最小限を見つけて、対処して下さい。

 稚魚も一ヶ月近くになれば水換え頻度は増してきます。
丸鉢に移す人なら、角鉢より丸鉢の水換え頻度はがらっと多くなります。その頃には稚魚も大分落ち着いて来ます。
梅雨時をこまめな水換えで凌げば、土佐錦の夏がウイルスを抑え、成長をもたらしてくれます。

 土佐錦の夏が終われば憂鬱が始まりますが、小忠実に世話をしていれば魚も元気でいてくれることが望めます。

 体力と抵抗力が僅かながらでも備わってくるからです。
免疫力となると当歳では、特に発症していない当歳では望み薄です。
免疫力は発症する度に、その時に生き残る度に強くなって行きます。
抗体と同時に体力が増して行くことが可能としています。
ヘルペスウイルスは収まると神経節等に潜伏しています。

 体力、抵抗力が弱まると出て来ては暴れます。
まず体力を保ち、弱まりを招かないことが肝心ですが、水温の低下だけでも代謝は弱まってしまいます。
すると、出て来てしまいます。出て来たウイルスは以前より強くなっていることが考えられますが、体力、抵抗力が抑える力を増していれば、軽くて済みます。

 案外頻繁に出てくると立ち向かう抗体も増して行きます。
その度に抵抗力が強くなって行きます。
抵抗力体力がついたところへ外部から新たなウイルスが侵入してくると、その分抗体は力強く増えてくれ、更に抵抗力が増します。
こうして親は強くなって行きます。

 抵抗力がある程度ついてからは、外部からの侵入がかえって抵抗力を強める働きをもたらす、こうなれば感染時に変調はあるものの、以外とけろっとした親魚になってくれます。
体内のウイルスは働かないように抑え、かつ外部から来たウイルスで抵抗力をさらに増す、これを手助けしているのが温度管理のもう一つの効果と言えます。

 それは温度管理で発症しないようにしている内に、体力、抵抗力、免疫力が増して、発症しづらい魚にしてくれます。

 温度管理をしていなかったり、なんらかで再び発症に見舞われている時、環境にウイルスが潜んでいれば、内からと外からの相乗攻撃を受けてしまいます。
そんな時に限って他の病気を併発し、親であっても絶命の危機に陥ります。

 また、条件悪化と内外からのウイルスと二重三重の悪環境ですから、感染は蔓延して被害は甚大なものへと展開してしまいます。

 温度管理は環境の一つの、鉢全体も抑える効果があることは以前にも書いています。
魚の免疫力を強めたうえに環境も整えているのですから、健康面への効果の大きさは実際体験していて驚かされます。

 ヘルペスウイルスの場合人間では、一度かかって治り抗体が出来ると次の感染時は軽くて済みます。
でも、抗体が年月を経ても再強化せずに弱まってしまうと、体力減退やストレスの増加で、体内に潜伏していたウイルスが何十年か後でも出て来て猛威を振います。
抗体を弱らないように、また増やすようにするには軽い感染を再び経験することが、かえって免疫力の維持や強化に繋がることになります。

 軽い感染とは、魚が元気な時に、免疫力のシッカリした時に、また環境が恵まれた時に、感染すれば可能となります。

 魚では、当歳でブラインシュリンプから感染したとして、3歳まで過ごして体力がついて、夏のような好条件化で再び感染するような感じです。人間と錦魚でもウイルスの基本作用は同じようだと考えています。
温度管理は対応力となり、再びの感染を軽く済ませます。
再びの感染を軽く済ませることは免疫力を強くします。
ウイルスを駆逐することができないのであれば、対応をシッカリするしかありません。
温度管理はウイルスへの対応力と同時に、再び遭遇したウイルスを利用する手助けとしても働いています。

 実験的観察は雌にしかしていませんが、雄も同じ条件化に置いていますから、同じようなことが言えると思っています。
もしかすると雄の方が敏感かも知れません。
そして、精子の質には卵より微妙な点を観察しています。
来期は雄も試して見るつもりです。

 来期には雄のみ産後に掛けた時の影響と、産前に温度掛けをした時の違いを比較したいと思っています。
雄は連日活躍することもあります。
産後に温度をかけた明くる日の採卵への影響。
産後に掛けた後の精子のもち。
固まり加減。
その時に余っていた精子が次の産卵までにどう変化するか。

 精子ならではの個別の問題を別にすれば、案外、雌と同じような大きな方向性のようなものが出てくるのではないかと、思いを巡らせています。

 免疫力を備えた魚は他の飼育者の池へ行っても、発症しなければ感染させることはありません。
ところが、いったん発症してしまうと、感染力を持ってしまいます。
その池が免疫力のないところだったら、すぐさま蔓延するでしょう。
我池でもその魚が来た時にはそんな状態でした。
それがウイルスとは知りませんでしたので、これまでの薬が効かない新しい菌とだけ認識していました。

 その魚がどこから来た、誰から来たとは一度も口にしたことはありません。
怨んでもいません。
逆に、私がどこかでは言われているかも知れません。
誰も悪気がある訳でもなく、
つき合いのなかでの思いがけない不幸です。

 我池にてのウイルスが納まると、生き残った親魚達はケロッとしていました。
その頃は東京でも親の飼育環境はまあまあ、当歳はまだミジンコでしたので、親の再発、当歳の発症も見られませんでした。

 やがてミジンコが芳しくなくなると、ブラインシュリンプに切り替えましたが、外国人の方にこれは良いからと、汚染されていない優良な缶を頂いていましたので、当歳の発症もみられませんでした。

 優良な缶が尽きて新たに汚染されていたメーカーの缶を使い始めると、感染が始まった訳になりますが、それでも環境がまだ良かったのか軽くて済んでいたようです。
その頃からか、親の産卵がちぐはぐになって来て、稚魚の育ちにムラが出てくるようになり始めました。

 親には新たな感染が起こったと感じられます。

 それでも育ってはいましたので、なんだか例年とは違うと感じていても、
まさか当歳はブラインシュリンプが元凶で、親は以すでに感染していたとは全く想像もしていませんでした。

 遠い他国でブラインシュリンプが汚染されていた。
それが、日本で被害を出しているなんて。
日本の環境悪化により輸入せざるを得ない事態が、
国際的な環境悪化のとばっちりを、知らないうちに土佐錦が受けていたと言えます。
鯉ヘルペスも然り、ではないでしょうか。

 こんな事態として被害を受けている錦魚仲間は、治療法を開発したら教え合い、
なじることなく、むしろ互いに労り合うようではないでしょうか。
私も、先に苦労をしていた方が開発した黄色い薬を教わりました。
今使っている薬はその薬を元に強化したものです。
そして、今でも魚の交流をしています。

 失敗からの研究成果を共有して、共にウイルスへ対抗し、土佐錦を維持、発展させたいものです。
日本の飼育環境の悪化により、国際的な環境悪化のとばっちりを、知らないうちに受けていたと言えます。

 むしろ互いに労り合い、
治療法を開発したら教え合い、
私も先方が開発した薬を教わりました。
今使っている薬はその薬を元にして、強化したものです。
今でも魚の交流をしています。
失敗からの研究成果を共有して発展させたいものです。

 ここでの温度管理と言う題も会員が私の情報に呼応して使っていたものを、皆さんへお伝えするに相応しい題名として、事後承諾で使わせて頂きました。それまでは文中にも出て来ますが、温度掛け、温度消毒、温度治療等と言っていました。

 温度管理も経験と使いようがあります。
慣れないとかえって失敗のような結果をもたらすことがしばしばです。

 ここに書いたことも失敗の積み重ねです。
そして、失敗の成果です。
未知のものでしたので知識を集めることが叶わず、実践先行でした。
現実的な成果によるもので、科学的立証はありません。
これならどうなるか。これだったらの繰り返しでした。
その失敗の成果の確証を得ずして、お伝えしていることも多くあります。
少しでも早く役に立つようにと踏み切っています。

 情報公開を信条に包み隠さず、お伝えしています。
これからも更に経験を積みお伝えすべきことを追加します。
また、具体的なこともその日にその日に書いています。
ただひたすら役立てて頂けたらの気持ちからです。
冒頭に書いた通り、今でもその信念は変わっていません。

 冒頭で、詳しくは質問を、と書いていましたが、何方もしてきませんでした。
冒頭のさわりだけで総て理解出来た人はいないと思っています。

 これだけ長く続いたことで、多義に渡りどれだけ複雑かを理解して頂けたと思います。

 皆さんの参考にと書いていますが、私自身が最も広くから情報を求めていると感じています。

 何方か参考になりそうなことがありましたら教えて下さい。

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