一九七七年、 昭和五二年三月発行、
一九七六年度、昭和五一年度第一回会報にて 玉野叔弘
近森氏との一問一答
昭和四九年、西暦一九七四年高知の土佐錦魚保存会大会を見学の際、当日大会前に近森邸へ伺い、基本を新たにすべく、懇切丁寧な教えを録音させて頂いたものです。
尚、解り易くするために、一問一答のかたちをとり、敬称を省いてあります。
近森氏の紹介 土佐錦魚保存会副会長 同 審査員 土佐錦魚天然記念物指定に貢献され、土佐錦魚保存の一翼を担って居られます。 |
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玉野 | 南国高知では冬越しはどのように致しますか? |
近森 | 私は十一月二五日から、二月十五日までは、あまりやらんです。たまに差し水をします。産卵までは極力餌は少なくします。 植木でも肥料を与え過ぎると花が咲かないように、錦魚も腹に脂肪が回りますね。 |
玉野 | 春、始めの水替えはどのように致しますか? |
近森 | 三分の一の差し水程度から、一週間に三分の一で、三週間で普通にします。 私が昔、正月に魚を観たいと思いましてね、新しい水に替えましたら、産卵が無精卵が多くて駄目でした。 替え水は一℃ぐらい、温度が高めがいいでしょう。 産まれた卵は新水でもいいのですよ。 |
玉野 | 卵の時から丸鉢で良いのでしょうか? |
近森 | 高知では丸鉢で飼えるでしょうが、東京では丸鉢全部にヒーターを入れないと、冷えるでしょう。 小さい時は一つの角鉢へ入れた方が、飼い易いですよ。 |
玉野 | どれくらいから丸鉢へ移せば良いのでしょうか? |
近森 | 百から四尾までもって行きます。 |
玉野 | 餌は何が良いのでしょうか? |
近森 | 普通はミジンコを使いますが、昔、私の先輩(宮地氏と片岡氏)はアカコ(イトミミズ)を切って与えていました。 「ミジンコは逃げるから追っていかん」 「口が太くなる」 「泳ぐから肩が落ちる」と言っていました。 |
玉野 | その頃の水替えは? |
近森 | はじめの選別までは差し水です。 今、名人と言われる人(宮地氏)は鱗のつくまでは、水を換えるなと言います。 六月まではまるで小さい。 夏は忙しくて見に行かないと、秋にはうちの錦魚より遥かに大きくなっています。 |
玉野 | 小さい時の選別は? |
近森 | 私も昔、先生に聞いたのですが、 「選別の骨なんか無い」 「ヘボな魚から捨ててけ」と、言われました。 尾肩があって、後に流れている魚をとっておき、張り過ぎ、肩がなくて流れている魚も駄目です。 |
玉野 | 少し大きくなってきた頃の具体例を、お聞きしたいのですが、片腹はどうですか? |
近森 | そんなものは捨てる。 |
玉野 | 付け違いは? |
近森 | 駄目。 要は、正常であって、水平に泳げば残す。 狂いが来ていたら、正常に伸びません。 尾は小さくてもいいんですよ。 |
玉野 | 夏の水替えは何日置きですか? |
近森 | 夏は二日に一回。二、三日殺した水がよいです。 理想は毎日糞をとって差し水をしてあげる。 これをやると体が保たん。 二十鉢以上は体を殺すと教わりました。 |
玉野 | 秋に気をつけることは? |
近森 | 体色の時に餌を控えて、水を濁らす。 |
玉野 | 秋になるといよいよ審査ですが、良い魚を一言で? |
近森 | バランスですね。 良い魚は良くしたもんで、バランスがとれている。 色は二の次ですね。 |
玉野 | 尾と体のバランスは? |
近森 | 五対五か、体が勝っていてもいいです。 尾は二歳三歳で太り(大きくなり)ます。 |
玉野 | 尾は水平でしょうか? |
近森 | そうです。 |
玉野 | 上がっているよりは、下がっている方が良いと聞きましたが、如何でしょうか? |
近森 | どっちも駄目です。 水平でピタリと |
玉野 | 尾芯が曲がっていたりしたら? |
近森 | それは、もう、駄目です。 |
玉野 | 尾先をちょいちょい上げるのは? |
近森 | やはり、落ちますね。 極め(決め)てなくては駄目です。 |
玉野 | 二本梶と一本梶ではどうですか? |
近森 | 二本梶が上です。 でも、審査では同等として、決めかねる時初めて裏を返します。 |
玉野 | 反転に名称があると聞きましたが? |
近森 | 折り前と一文字前です。 |
玉野 | 目と口との長さは有る方が良いですか? |
近森 | 目先は有る方が良いですね。 三角に、奇麗に。 近親を三代掛け合わすと、顔が四角くなる。 |
玉野 | 頬と言うか、目の後ろが痩けているのは? |
近森 | やはり落ちますね。 |
玉野 | [品があることが良いこととは聞いていますが] 力強さは如何でしょうか? |
近森 | 力は有る方が良い。 スケールが大きいと言うことですね。 体はガチッと雌タイプがいいですね。 雄は長くなりがちですが、やはり丸手ですね。 |
玉野 | 泳ぎには何か有りますか? |
近森 | 泳ぎ出しには有りません。 あれだけの尾がついているのですから、まともに泳げません。 曲がって泳がなければ良いのです。 審査員が見ている時良く泳ぐ。 良く魅せるのが良い。 |
玉野 | 他に何かポイントは有りますか? |
近森 | 尾筒は太いものがいいですね。 グッと極(決)まっていると伸びがなくて、狂いがこないですよ。 金座の大きいことが大切ですね。 将来、大物になります。 種魚は何か一つ特徴のある魚を使うといいです。 |
玉野 | |
近森 | ハネですね。 手術をしてあげればいい。 |
玉野 | 手術はしたと判ってもいいのですか? |
近森 | 判らなければ尚いいですね。 判れば落ちます。 治っていない、切ったところがついていない場合、審査の対象外です。 |
玉野 | 皺、襞の他にどのようなところを手術しますか? |
近森 | 桜もします。 尾芯を少し切ってあげます。 尾幅の違いは、小さい方をカットしてあげる。 片方をひく場合は、ひく反対側を除ける。 |
玉野 | 尾先を上げる場合は? |
近森 | 切るのでなくて裂くんです。 |
玉野 | もし、尾を手術して更に良くなりましたら、品評会で入賞しますか? |
近森 | 入賞します。 これは芸術です。 |
玉野 | 手術を毛嫌いしていましたが、土佐錦魚はいじるべき魚なのでしょうか。 |
近森 | 良い魚は弄っても良いと思います。 良い魚はさらに作るのです。 名人は錦魚を作る。 我々は飼っているだけなんですよ。 効くでも懸崖が有り、一輪咲きが有るように。 |
玉野 | 手術の道具は、どのようなものがありますか? |
近森 | 竹を使っていますね。 スポークを使ったり。 手術用のハサミを使います。 皆それぞれに工夫しているようです。 |
玉野 | 手術の出来ないところは? |
近森 | 尾は出来ますが、大破できません。 尾幅や大きさが小さくても残しておくことです。 |
玉野 | 経験も浅いので死なせますが、気をつけることは? |
近森 | 殺してもいいんですよ。 殺した原因は何か自分で原因を探り、二度と同じ失敗を繰り返さない。 と言うことが大事なのです。 昔、あそこの魚はいい。 けど、よう育たない。と言われる人がいました。 水が違うのだろうと思って、水を貰ってきても駄目なんですね。 人と違った独特の飼い方をしているのですね。 私は遊びに行って見せてもらったのですが、他の人が行くと、その鉢に近寄っては駄目だと言うんです。 「近寄ると魚が動く、動くと形が崩れる」 と言っていました。 |
玉野 | 今日はどうも有り難うございました。 ぶしつけに質問ばかりしまして失礼致しました。 今後も魚に力を入れたいと思います。 そろそろ品評会の時間も近づきましたので、これで失礼致します。 |
近森 | 研究熱心なのには驚きました。 とことんまですると良いですね。 これからを期待して居ります。 |